2018 Fiscal Year Annual Research Report
高次元アフィン空間における自己同型群の構造と自己同型性判定
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18J10420
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
長峰 孝典 新潟大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | アフィン空間の自己同型射 / 多項式環におけるレトラクト / 次数付環 / 乗法群の作用 / 加法群の作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
アフィン空間の自己同型群や自己同型射の構造を明らかにすることを目標とし、座標と呼ばれる多項式に着目した研究を行なった。座標とはアフィン空間の軸に相当する多項式である。例えば2次元ならx軸やy軸に相当する多項式のことである。座標をよく理解することはアフィン空間そのものやアフィン空間の自己同型射を理解することに直結する。 研究代表者は、これまでの研究で座標を含む新しい概念を発見し、それを分解閉多項式と名づけた。研究代表者は、小島秀雄氏、北澤千秋氏と共同研究を行い、これまで2次元の場合でしか得られていなかった分解閉多項式に関する研究成果を、一般次元の場合に拡張させることに成功した。これにより、高次元の場合での座標の研究を進展させることができるようになった。特に、これまでのアフィン代数幾何学の研究において重要視されていた種々の具体例 (Danielewski曲面、Koras-Russell3次元多様体等) が、座標ではない分解閉多項式であることを明らかにした。従来の研究とは別視点でこれらの例の重要性を示したことになる。 さらに、多項式環の部分環でレトラクションと呼ばれる性質を持つものに関して、1977年にDouglas L Costaが提唱した問題に対する研究成果を得た。基礎体の標数が0で変数が3の場合には肯定解を得た。また基礎体の標数が正でかつ変数が4以上の場合には、この問題に対して反例があることも明らかにした。 Gene Freudenburg氏との共同研究では、楕円的なG_m 作用を持つ2 次元の一意分解的有理代数多様体に対する分類結果を得た。環への次数付けから得られる新たな概念を導入し、その応用の1 つとして前述の分類を完成させた。類似の結果は1977年に森重文氏によって与えられているが、我々の手法は森氏の幾何学的な手法とは異なり、座標環の次数構造に着目した純代数的なものである。この点において、我々の手法は3次元以上の高次元の場合に対しても有効である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分解閉多項式に関する研究成果は、2018年の7月にプレプリントサーバのarXiv (arXiv:1807.09105) にて公開している。当初想定していたよりも早い段階に、一般次元で分解閉多項式に関する結果を得ることができた。これにより、座標に関する研究において、高次元の場合に対するアプローチを早い段階から行うことができている。さらに、一般次元での分解閉多項式の特徴づけは、幾何学的視点と可換環論的視点の双方を関連づけるものであり、これは後述の研究成果の基礎となるアイデアの1つでもある。 多項式環におけるレトラクトに関する研究成果は、アメリカ・ウエスタンミシガン大学のGene Freudenburg氏の下で研究活動をしている際に得られたものである。本研究は、研究代表者がこれまでに得た整閉多項式の理論を、多項式の組に対して拡張させるというアイデアを主軸において行われている。多項式環におけるレトラクトは、組に対する整閉多項式の理論の部分的な定式化を与えており、思いもがけない方向から本研究の進展があった。こちらの研究成果も、2018年11月にプレプリントサーバのarXiv (arXiv:1811.04153) にて公開している。 さらに、Gene Freudenburg氏との共同研究では、基礎体の乗法群G_mの作用を持つ代数多様体の分類に取り組んだ。Freudenburg氏と共同研究を行う前は基礎体の加法群G_aの理論にのみ着目して研究を行なっていた。Freudenburg氏はG_a作用を用いいた研究手法に長けており、元々本研究完成のために、G_a作用の観点からの議論を同氏と行う予定で渡米した次第であった。しかし、共に研究を進めているうちに、G_aの理論だけでは足りない点とG_mの理論の利便性に気づくことができ、前述の研究成果を得た。2018年12月にプレプリントサーバのarXiv (arXiv:1812.04979) にて公開している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標は、座標を多項式の対へ一般化した概念の導入と定式化をし、高次元アフィン空間の自己同型射の性質を明らかにすることである。2018年度までの研究で、座標をどのように一般化するべきか、いくつかのアイデアを得ることができた。さらに、多項式環のレトラクトに着目した結果、ある特殊な場合での一般化に成功している。2019年度はこれらの部分的な結果を考察することで、多項式の対に関する理論の定式化を目指す。 また、Gene Freudenburg氏との共同研究を引き続き行い、G_mの作用を持つ代数多様体の構造解明を試みる。これまでの研究では、2次元の場合には分類を完成させることができた。また、3次元の場合にも部分的な結果は得られている。これらの結果を発展させることで、3次元以上の高次元の場合での分類や構造解明に取り組む。 他方で、2018年度に行った研究の副産物として、多項式環における微分作用の性質で、正標数特有の現象を発見した。この性質は、環の拡大に関する潤滑性と呼ばれる性質に着目することで、統一的に理解できることもわかった。現在は、この内容に関する論文を執筆中であり、2019年度内に学術雑誌へ投稿し、発表する予定である
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