2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞質特異的な長鎖非コードRNAがSTATシグナルに及ぼす機能の理解
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18J10428
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
嵯峨 幸夏 東邦大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 細胞性粘菌 / lncRNA / STAT / RNA結合タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、細胞性粘菌の細胞質長鎖非コードRNA (lncRNA)であるdutA RNAについて、dutA RNA結合タンパク質の同定とそれらの機能解析、及びdutA RNAの局在解析を通し、STATaシグナル伝達における細胞質lncRNAの作用メカニズムを明らかにすることである。 lncRNAの機能はクロマチン修飾等を介した核内での遺伝子発現制御に関する報告例が多く、細胞質中の転写因子に働きかけて機能するlncRNAの報告例は少ない。細胞性粘菌の転写因子STATaは、真核多細胞生物で広く保存される転写因子STATのホモログである。STATa制御因子の候補として同定されたdutA RNAが実際にどの様にSTATaを制御しているかを解明することで、核内lncRNAに比べて未解明な部分の多い細胞質lncRNAの新たな機能を明らかにできると期待している。 本年度は、まず既知のdutA転写領域に誤りがあることがわかり、RACE解析により改めてdutAの転写領域を決定した。さらに、複数種のプローブを用いたRNA FISH解析によりdutA RNAの局在を詳細に調べたところ、どのプローブでも同じ結果が得られ、発生時期によって局在が劇的に変化することを示した。また、dutA RNAとSTATaとの共局在を調べた結果、両者の局在は一致しなかったことから、dutA RNAは他の何らかの因子を介してSTATaに間接的に作用していることを明らかにした。 さらに、dutA RNA結合タンパク質については複数のタンパク質の同定に成功した。最もdutA RNAに親和性が高いと思われるDscEについては、特異的な抗体を用いてRIP法を行ったサンプルの中にもdutA RNAが存在し、DscEとdutAが特異的に結合していることを示せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
dutA RNAの局在解析については当初の計画通り実験を行い、概要で述べた結果が得られてきている。さらに、改訂したdutAの転写領域をもとに新たに作製した遺伝子破壊株と、過剰発現株について、dutA RNAに影響を受けmRNA量が変動する遺伝子がないかを網羅的に調べるために、受入研究者によりRNA-seqを行ってもらった。RNA-seqのデータは得られたばかりであり、今後解析を進める予定である。 dutA RNA結合タンパク質の精製は修士課程大学院生と協力してChIRP法を試したが、特異的な結合タンパク質の存在を検出できたものの、非特異的な結合を示すバックも高かった為、改めてマルトース結合タンパク質 (MBP)をタグとして利用したMBP-Trap法を立ち上げて複数のタンパク質を精製し、その内DscEを含む4種類をMS/MSで同定した。DscEについては遺伝子破壊株と過剰発現株も得られており、現在RNA FISHと免疫抗体染色によるdutA RNAとの共局在解析、発現解析と表現型解析を行なっている。 これらの進捗結果を日本RNA学会と日本分子生物学会でポスター発表した。また、本研究に関連したSTATaの活性化に関わるキナーゼについて、これまでの研究をまとめた論文を投稿し、Genes to Cells誌にacceptされた。以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
RNA FISH解析によりdutA RNAの局在が発生時期によって劇的に変化することを明らかにしたが、この局在変化が転写制御やRNAの安定性に起因するのかを調べるため、転写制御についてはlacZ遺伝子を利用したレポーター解析を行い、安定性についてはBRIC解析を行う予定である。 dutA RNA結合タンパク質の解析は、DscEの解析を進めるとともに、同定された他のタンパク質についても遺伝子破壊株及びタグ付きの過剰発現株を作製中であり、それらが出来次第、DscEと同様の解析を行う予定である。 dutA転写領域の改訂に伴い新規に作製した遺伝子破壊株及び過剰発現株を用いたRNA-seq解析は当初の計画にはない研究内容であるが、いくつかのSTATa関連遺伝子のmRNA量を半定量RT-PCRで比較した予備実験の結果、株ごとに各遺伝子のmRNA量に変動が見られた。本年度の研究でdutA RNAはSTATaに間接的に作用することが明らかになったことから、RNA-seq解析により新たなdutA RNA関連遺伝子を同定することができれば、それらの遺伝子はdutA RNAがどの様にSTATaに作用しているのかを解明する糸口になると考えている。
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