2018 Fiscal Year Annual Research Report
ニュートリノの質量逆階層構造領域におけるマヨラナ性検証
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18J10498
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
蜂谷 尊彦 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ニュートリノ / 二重ベータ崩壊 / マヨラナニュートリノ / 極低放射能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はニュートリノのマヨラナ性を検証することである。マヨラナ性とは粒子=反粒子という性質である。ニュートリノのマヨラナ性の証拠となる現象がニュートリノレス二重ベータ崩壊(0ν崩壊)であり、本研究はKamLAND-Zen 800 (KLZ800) 実験によりキセノン136の0ν崩壊を探索する。本年度の主な成果は次の3つである: (1) KLZ800の物理観測を開始した、(2) KLZ800のメイン装置であるインナーバルーン(IB) を清浄に製作し実装できた、(3) 0ν崩壊信号の偽信号を同定する新手法を開発した。 (1) 本年度の初めから約1年かけて次のような作業を行い、2019年3月に0ν崩壊観測を開始した: 2017年より製作していたIBの完成、IBを大型液体シンチレータ検出器KamLANDへ実装、液体シンチレータ(LS)をIBへ充填、カメラや化学分析によりIBからLSの漏れが無いことを確認、LSの純化による不純物除去、IB内のLSに750 kgのキセノンガス溶かし込み。 (2) IBの清浄度は0ν崩壊探索感度に影響する。我々は先行研究KamLAND-Zen 400 (KLZ400)のIB製作環境を改善してKLZ800のIB製作を行ってきた。(1)で述べたIB実装後のKLZ800の観測データから、KLZ800のIBはKLZ400の3倍で清浄あることを確認した。これによりKLZ800は約半年の観測で0ν崩壊探索の世界最高感度を更新する。 (3) トリウム系列核種のビスマス212とポロニウム212はそれらの連続崩壊により0ν崩壊の偽信号を作る。本研究では超長時間(2日間)遅延同時計測法を開発し、偽信号を同定できることを示した。KLZ800のLSのトリウム含有量は想定よりも多かったが、この新手法により0ν崩壊探索感度の低下を防ぐことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度内にKLZ800の物理観測を開始できたこと、偽信号除去の新手法を開発できたことから、おおむね順調と評価する。清浄なIBのインストールを実現できたため、今後の観測データから高感度な0ν崩壊探索を行えると期待している。 理想的には年度内に数ヶ月分の観測データを蓄積できる予定であったが、[研究実績の概要]で述べたように、IBへ充填したLSのトリウム含有量が想定よりも多かったため、それを除去するためのLS純化作業を行ったことにより観測開始が年度末にずれ込んだ。LS純化はLSを蒸留しながら循環する方式で行い、合計でIB体積の5倍相当量を循環させた。純化の効果を確認するためのデータ蓄積期間を含めてこの作業には約4か月を要した。 前述の物理的除去に加えて、トリウム系列核種由来の偽信号を解析的に同定する方法の開発に取り組んだ。超長時間(2日間)遅延同時計測法である。ラドン220とポロニウム216(半減期0.15秒)の遅延同時計測事象を先発事象として、後発の偽信号を同定する。先発事象を遅延同時計測事象とすることで、2日という非常に長い相関時間を要請しても偶発事象を抑えられることが判明した。過去のKamLANDのデータを用いてこの手法の性能を評価した結果、検出器の不感時間を10%程度に抑えながら偽信号を80%程度できることが分かった。トリウム系列核種の崩壊信号はKamLANDの太陽ニュートリノ観測の偽信号でもあるため、この手法により太陽ニュートリノ観測の高精度化も期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はKLZ800で半年ほど蓄積する観測データを用いて、0ν崩壊探索解析を行う。そのために0ν崩壊信号の偽信号を評価及び除去することに注力する。特に本研究ではビスマス212―ポロニウム212連続崩壊信号(パイルアップ)と炭素10崩壊信号を対象とする。 パイルアップについては、[現在までの進捗状況]で述べた新手法と、従来の手法の最適化で対処する。新手法は過去のKamLANDのデータへの適用で原理検証を終えた段階であり、KLZ800へ適用するために相関時間や相関距離といった条件を最適化する必要がある。従来の手法とはダブルパルスフィッターというツールで信号そのものの2波形らしさを評価するものである。より短時間で連続した信号を判別しようとするほど誤判別率が高くなるため、0ν崩壊信号取得効率と偽信号除去効率に関して最適化が必要である。 炭素10は宇宙線ミューオンが炭素原子核を破砕して生成するものである。先行研究KLZ400では3事象遅延同時計測(ミューオン、中性子捕獲γ、炭素10崩壊)により64%の除去効率を達成していた。本研究ではこの手法に加えて、ミューオンのエネルギー損失位置分布との相関を用いて炭素10崩壊信号を同定する。 半年の観測データで先行研究KLZ400の0ν崩壊探索感度を更新し、1年観測のデータでマヨラナ有効質量にして50 meV以下に対応する逆階層構造領域に感度到達する見込みである。
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Research Products
(7 results)