2018 Fiscal Year Annual Research Report
高分子流体のマルチスケールシミュレーション法の開発と成形加工プロセスへの応用
Project/Area Number |
18J10643
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 健 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | マルチスケールシミュレーション / レオロジー / 粒子法 / 高分子からみあい系 / Slip-linkモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は,以下に示す(1)および(2)の2つの課題に主に取り組んだ. (1)Multi-Scale Simulation(MSS)法を用いた成形加工プロセスのモデル流路における高分子流動の解析 時空間的に高い階層構造を持つ高分子流体に対しては,ミクロモデルとマクロモデルを直接関連付けるMSS法が有効である.本研究ではMSS法を用いて,射出成形プロセスのモデル流路と考えられる急縮小・急拡大流路におけるからみあい高分子の流動を計算することを可能とした.その結果について,流体方程式と高分子流体の構成方程式を組み合わせた計算からは得られないミクロレベルの情報に着目した考察を行った.そのひとつとして,「1本の高分子鎖上のからみあい点密度」の解析から,着目した変形速度領域において,高分子鎖上でアーチ状のからみあい密度分布が形成されることが分かった.これついて,新たに考案したモデル式による解析から,「高分子鎖上のからみあい点の移流と高分子鎖末端におけるからみあい生成の釣り合い」という機構でアーチ状のからみあい密度が生成されることが示唆された. (2)MSS法で用いるミクロモデルの改良 課題(1)のMSS法に用いてきたからみあい状態における高分子のダイナミクスを記述するミクロモデル(Slip-linkモデル)には,高分子鎖の伸長を伴う高ひずみ速度流動下の一軸伸長粘度について,高分子溶融体の実験結果から著しく逸脱するという問題があった.その問題の解決のために,近年盛んに研究されている「高ひずみ速度流動下において高分子鎖が受ける摩擦が低減する」というメカニズムに着目し,一軸伸長粘度の予測を改善することを試みた.レオロジーの分子論に基づいたモデル化を行い,その結果として,単分散直鎖ポリスチレン溶融体における「一軸伸長粘度がひずみ速度の単調減少関数になる」という実験結果を定量的に再現することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)の課題については,急縮小・急拡大流路におけるからみあい状態にある高分子の流動を等温の条件で解析することを可能とし,結果は学術誌に掲載された.しかし,一般的な成形加工プロセス中の高分子流動は非等温の流動であるため,新たにエネルギー方程式を組み込んだ非等温の高分子流動の問題を考える必要がある.非等温高分子流動の問題については,モデル化を完了した段階であり,当初計画していた非等温系におけるミクロレベルの高分子状態の解析については十分に行えていない. (2)の課題に関しては,MSSに用いるミクロモデルに着目し,「配向・伸長状態における分子摩擦の低減」という新たな機構を取り入れることで,ミクロモデルによる非線形レオロジーの予測を改善することができた.これは当初の計画以上の進展であり,この結果は学術誌に投稿中である. 以上のことから総合的に判断すると,本研究課題は「おおむね順調に進展している」と考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も上記の(1)および(2)の研究についてそれぞれ進める.最終的には(1)と(2)を統合することによって,高分子成形加工プロセスに即した流路における検討を可能にしたいと考えている.詳細を以下に述べる. (1)については,急縮小・急拡大流路の非等温高分子流動を対象とすることで,成形加工プロセス模した流路において非等温のMSSを可能とすることを目標として研究を行う.得られた結果については,MSS法を用いる利点の1つである「ミクロレベルの高分子状態に関する情報を得られること」に主眼を置いた解析を行う.MSS法による計算は,ミクロレベルの情報を追跡しているため,計算量および計算時間の問題がつきまとう.計算負荷の問題については現在並列化が行われていないマクロモデルの並列化によって対処することを考えている. (2)については,改良したミクロモデルの柔軟性について検討することを今後の最初の課題とする.一般の高分子成形加工プロセスでは,所望の物性を得るために,高分子溶融体ブレンド系が用いられることが多い.昨年度までの検討の結果,改良したミクロモデルが,単分散直鎖ポリスチレン溶融体・単分散直鎖ポリイソプレン溶融体・単分散星型ポリスチレン溶融体について有効であることを確認した.この結果を踏まえて,高分子溶融体ブレンド系の高ひずみ速度流動下におけるミクロモデルの構築に取り組む.その後,拡張したミクロモデルを用いたMSSによる研究を行う予定である.対象は,高分子繊維を製造するプロセスである高分子溶融紡糸プロセスとし,高ひずみ速度下についてもMSS法が有効であることを示したいと考えている.
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Research Products
(8 results)