2018 Fiscal Year Annual Research Report
ナノビームX線回折法による3次元結晶構造トモグラフィックマッピング解析技術の確立
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18J10700
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
志田 和己 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ナノビームX線回折 / 深さ分解 / SPring-8 / 結晶構造解析 / 窒化物半導体 / IV族半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
高機能電子・光デバイスの実現には、その材料となる半導体結晶の高品質化が不可欠である。欠陥を低減した高品質な結晶の作製には、結晶成長プロセスの最適化と共に、作製した結晶の詳細な欠陥構造評価が極めて重要である。本研究では、大型放射光施設SPring-8におけるナノビームX線回折光学系を応用することで、結晶中の空間的な欠陥分布を非破壊かつ定量的に可視化することのできる、3次元結晶・欠陥構造トモグラフィック(断層)マッピング解析技術の確立を目的としている。X線回折の原理上、平均化される深さ情報を抽出するため、試料に対してX線を照射した際に発生する回折X線の一部を物理的に遮断するプロファイラ(白金ワイヤ)を新たに測定系に導入することで、表層から所定の深さまでの情報を選択的に取得する手段を考案した。空間分解能の高い放射光ナノビームを用いて試料面内にビーム照射位置を変えながら当手法を用いることで、欠陥構造の面内分布を深さ分解したトモグラフィックな構造解析を目指している。 まず、測定光学系への白金ワイヤの導入を行い、試験的な計測を行った。その結果、白金ワイヤの微小な移動に対して、検出される回折X線の僅かな変化を捉えるためには、従来用いてきたものより感度が高くSN比の良いX線検出器を必要とした。これを受け、新しい検出器の導入及び測定環境の立ち上げ、それに伴って形式変更された取得データの解析ツール開発を行い、結晶深さ情報の抽出が十分可能な測定・解析環境の構築が完了した。一方、当手法では、白金ワイヤの動作精度が深さ分解能に大きく影響することが予想された。そのため、白金ワイヤの配置や移動の仕方等のパラメータを振り、ワイヤ位置から考えられる深さ情報抽出範囲の理論計算と比較することで、ワイヤ動作の精密性の検証を行った。現在はその結果をもとに、白金ワイヤによる深さ情報抽出測定系の最適化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、2018年度は前後期で計2度のSPring-8のマシンタイムを確保し、ナノビームX線回折実験を遂行することができた。採用以前の期間におけるマシンタイムで、新たに考案した白金ワイヤを用いた深さ分解測定の検証実験を行った際、使用したX線検出器の感度やSN比等の性能が深さ分解測定を行うにあたって不十分であることが判明した。そのため、2018年度前期のマシンタイムでは、新たなX線検出器を導入し、測定環境の立ち上げ作業に注力した。当初の計画では、当該マシンタイムで、標準試料である無転位のSi単結晶を新たに開発中の手法で深さ分解測定を行い、理論計算の結果と比較することで、白金ワイヤの導入及び移動などの測定系固有の影響を明らかにする予定であった。しかし、上記の通り新検出器の導入及び動作確認等にマシンタイムを要し、測定系への白金ワイヤの導入には至らず、標準試料の測定は時間的に困難であった。そこで計画を少し変更し、新検出器を用いた測定のテストも兼ねた検証実験に当該マシンタイムを充てた。2018年度後期のマシンタイムでは、前期に立ち上げた新検出器及び測定環境を用いて、白金ワイヤを用いた結晶深さ情報の選択的抽出測定を行うことができ、各種検証実験の遂行に至った。以上を統括すると、年に2度という限られたSPring-8のマシンタイムの中で、深さ分解測定に不可欠な白金ワイヤの導入及び測定環境の構築が完了したことは、大きな進展であると言える。一方、検出器の新調と測定環境の立ち上げ、それに伴ったデータ解析用ツールの開発等は当初想定しておらず、一部計画通りの研究遂行には至らなかった。以上のことから、当初の計画以上の成果とは言えないものの、おおむね順調な研究進捗状況であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も、大型放射光施設SPring-8におけるナノビームX線回折光学系の利用にあたり、前後期2度のマシンタイムを確保する。前期実験日程については、前年末に申請した課題が採択されており、12シフト(96時間)のマシンタイムが与えられている。前年度は、新X線検出器の導入及び立ち上げ等にマシンタイムを充てたため、当初計画していた標準試料の測定が未遂となっていた。現時点で、新検出器を用いた測定・解析環境の構築は完了しており、本年度前期マシンタイムではこれを用いて標準試料に対する深さ方向の結晶構造測定を行う。深さ情報を抽出するために新たに導入した白金ワイヤが、試料から発生した回折X線に対する反射・散乱等を引き起こす恐れがあるため、標準試料を用いた測定の結果と理論計算を比較することで、そういった測定系固有の影響を明らかにする。後期マシンタイムまでの期間では、これまでに取得した白金ワイヤの配置や走査方向等の種々のパラメータを変えた深さ分解測定の検証実験結果をまとめ、本測定法を最適化するための測定条件を確定する。そして、考案した測定系で取得できる結晶構造に関する情報と測定系固有の影響を整理することで、当該測定法で得られるデータを用いた、3次元結晶・欠陥構造トモグラフィックマッピング解析法を確立する。後期マシンタイムでは、最適化した解析手法の有効性を実証するため、種々の窒化物半導体結晶の評価を行う。具体的には、成長面内のみならず深さ方向の結晶構造の変化が予想されるGaN/AlGaN/AlN/サファイアや、GaN/AlGaN組成傾斜/AlN/サファイア等のハイブリッド構造等を評価対象として計画している。
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Research Products
(8 results)