2018 Fiscal Year Annual Research Report
トランス脂肪酸による動脈硬化症発症の分子機構解明および予防・治療戦略の開発
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18J10828
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 未来 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | トランス脂肪酸 / 細胞死 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
トランス脂肪酸は、疫学的な知見から、循環器系疾患、生活習慣病等の諸疾患のリスクファクターとされているが、その発症機序はほとんど不明である。申請者らは、トランス脂肪酸が、自己由来起炎性因子の1つである細胞外ATPや、DNA損傷によって誘導される細胞死を強力に促進する新規作用を見出しており、上記作用が各々、ストレス応答性キナーゼASK1およびDNA損傷応答に重要な転写因子p53を介していることを示し、その分子基盤や病態発症との関連を明らかにしてきた。本研究では、トランス脂肪酸によるDNA損傷誘導性細胞死の促進機構の分子基盤をさらに詳細に明らかにし、その分子基盤を基に、多様なトランス脂肪酸の種類ごとのリスク評価、および個体レベルでの病態悪化作用の解析を行うことで、動脈硬化をはじめとした関連疾患発症機序の解明を目指す。 本年度のトランス脂肪酸の作用機構に関する詳細な解析から、DNA損傷時のp53活性化促進に、活性酸素種 (ROS)を介したストレス応答性MAPキナーゼp38活性化経路が寄与することを見出した。実際にこの時、ROS産生およびp38活性化の増強が認められており、トランス脂肪酸は、ROS産生促進によって本作用を発現するものと想定される。また、トランス脂肪酸種ごとの細胞死促進作用の解析から、トランス脂肪酸の中でも、食品製造過程で産生される「人工型」の毒性が、反芻動物由来の「天然型」よりも強力であることが判明した。本成果は、これまで「天然型」ではなく「人工型」トランス脂肪酸の疾患発症への寄与を示唆してきた疫学研究を裏付けるもので、非常に重要な研究成果である。マウス病態モデルの解析についても進行中で、通常の高脂肪食摂取群と比較して、トランス脂肪酸含有高脂肪食摂取群では、特に肝臓における著明な脂肪蓄積が認められており、動脈硬化症との関連も含め、今後その詳細な発症機序を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トランス脂肪酸によるDNA損傷誘導性細胞死の促進作用について、転写因子p53の欠損細胞を用いた解析から、エライジン酸(代表的な人工型トランス脂肪酸)はp53の活性化および下流の細胞死誘導因子の発現誘導を促進することで、細胞死を亢進することが示唆された。様々な阻害剤を用いた検討の結果、エライジン酸による細胞死の亢進が、抗酸化剤またはp38阻害剤の共処置で抑制されたことから、p53の活性化亢進には、ROSを介したp38活性化経路が寄与していることが示唆され、トランス脂肪酸の作用点に迫ることができた。また、エライジン酸存在下では、実際にDNA損傷時のROS産生およびp38活性化が増強していたことから、トランス脂肪酸は、細胞内ROS産生を増大させることで、p38を介したp53活性化を促進することが想定される。 トランス脂肪酸種ごとの細胞死亢進作用の解析から、トランス脂肪酸の中でも、特にエライジン酸やリノエライジン酸といった食品製造過程で産生される「人工型」と呼ばれる脂肪酸種が強力な細胞死亢進作用を有する一方、トランスバクセンなどの反芻動物由来の「天然型」の脂肪酸種は亢進作用を示さないことが判明した。本成果は、「天然型」よりも「人工型」のトランス脂肪酸が疾患発症に寄与することを示唆してきたこれまでの疫学研究の結果を支持する、重要な成果である。また、本作用は、オレイン酸をはじめとした複数のシス脂肪酸の存在下で軽減可能であることも見出し、疾患発症予防の観点からも重要な成果が得られた。マウス病態モデルの作製・解析も進めており、トランス脂肪酸含有高脂肪食摂取群の病態解析から、通常の高脂肪食摂取群よりも、肝臓における脂肪蓄積がさらに亢進するという興味深い現象を見出しており、動脈硬化症との因果関係について、今後解析を進める予定である。以上のように、当初の予定通り、研究は十分に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、DNA損傷時のp53活性化および細胞死の促進機構におけるトランス脂肪酸の作用点の同定を目指し、各種ROS消去剤あるいはROS産生関連分子の各種阻害剤を用いた解析や、標的候補分子の修飾状態・機能的影響の解析によって明らかにしたい。また、p53はユビキチン化やリン酸化などの翻訳後修飾により発現や転写活性が制御されていることから、p53の修飾状態や発現量・細胞内局在について解析することで、トランス脂肪酸によるp53活性化促進機構を解明したい。 各種トランス脂肪酸の細胞死亢進作用およびシス脂肪酸による毒性軽減効果の検討については、初年度の解析結果を踏まえ、より広範な脂肪酸種について包括的な検討を行う。本年度までに、トランス脂肪酸の中でも、工業的な食品製造過程で産生される「人工型」が特に毒性が強いこと、シス脂肪酸の中でも、オレイン酸が特に毒性軽減作用が強いことを明らかにしているが、次年度は、さらに多様なシス・トランス脂肪酸種の組み合わせについてリスク評価や毒性軽減作用の検討を行う予定であり、疾患予防策の提言や食品安全性の向上に繋がる成果が期待できる。 マウス個体におけるトランス脂肪酸の病態悪化作用の検討については、トランス脂肪酸高含有高脂肪食を摂取させた病態モデルマウスについて、病理学的解析とともに、これまでにトランス脂肪酸の作用点として同定したASK1やp53の活性化状態の解析や炎症・細胞死の評価等の生化学的解析を行い、細胞レベルで確認した細胞死亢進作用と病態悪化作用の関連を検証する。最近、NAFLD/NASHなどの脂肪性肝疾患に起因した動脈硬化症の発症や、両疾患の合併症が大きな問題となっているが、初年度の解析結果から、トランス脂肪酸高含有高脂肪食摂取群の肝臓での著明な脂肪蓄積を見出しており、動脈硬化症との関連を含め、詳細な解析を行っていきたい。
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