2018 Fiscal Year Annual Research Report
脊索動物ワカレオタマボヤを用いた母性因子の大規模な機能解析による初期発生の研究
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18J10929
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松尾 正樹 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ワカレオタマボヤ / 母性因子 / 母性mRNA / 初期発生 / 運命決定 / 卵形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
卵形成の過程で合成されるmRNAやタンパク質などの母性因子は、初期発生で重要な役割を果たす。特に脊索動物の初期発生過程ではまだメカニズムのわかっていない運命決定機構が存在し、そこには未知の母性因子が関わっていると期待できる。一方、母性因子を機能解析するための既存の手法は、コストがかかるため大規模な解析に不向きであり、また卵形成の段階ですでに翻訳されるタンパク質の抑制には間に合わない。申請者は単純な脊索動物ワカレオタマボヤを用いて、これらの問題点を解決した手法を確立した。この手法が確立したことからワカレオタマボヤを用いて「局在する母性mRNAの統合的解析」のプロジェクトを進めている。オタマボヤの動植軸及び前後軸に沿って局在する母性mRNAについて大規模な時間空間的解析を行い、母性mRNAについてのデータを統合的に収集する。手法としては主にwhole mount in situ hybridization (WISH)を用いて、初期胚の各ステージにおける母性mRNAの局在を可視化する。RNA-seqから得られた初期胚の動物半球と植物半球で発現量に差のある母性遺伝子をリストアップし、発現量に3倍以上差のある24個の遺伝子について局在の有無を確かめる。現在の進捗状況としては7つの遺伝子をWISHし、8細胞期において植物半球後方に局在する5つのmRNAを発見している。これらの遺伝子についてノックダウンによる機能解析も並行して行なっている。さらに未受精卵で局在する母性mRNAを1つ新しく発見した。脊索動物ホヤ綱において母性mRNAが局在するメカニズムは分かっていない。オタマボヤの卵巣の構造は発達ステージごとのサンプル収集に適しているため、これを活かして卵形成過程で母性mRNAが局在するメカニズムについても研究する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オタマボヤの動植軸に沿って局在するmRNAの時間空間的解析について進捗状況を報告する。まず解析の対象とする遺伝子のリストアップを再検討した。RNA-seqの解析がChinese Academy of Sciencesとの共同研究で再度行われたため、その新しいデータに併せて8細胞期胚の植物半球側に偏っている遺伝子を並べ直した。さらにそれらの遺伝子発現が母性か胚性かどうかの絞り込みを、発生ステージ毎のRNA-seqの結果と照合しながら行った。その結果、動植軸で発現量に3倍以上差のある24個の母性遺伝子について解析を行うことを決定した。現状、24個中7個の遺伝子についてwhole mount in situ hybridization (WISH)による時間空間的解析が完了しており、うち5つの遺伝子が8細胞期胚で植物半球後方に局在することが明らかになった。 さらにこの実験過程で、興味深い結果が現れた。未受精卵でも上記の遺伝子をWISHしたところ、未受精卵の段階で植物極に強く局在する遺伝子を1つだけ発見した 。当初この結果の再現性をとることに難航したが、アクチナーゼEによる卵膜の除去、hybridization buffer、ブロッキングなどの条件について検討を行うことによって再現性をとることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず初期胚における母性mRNAの時間空間的解析については、残り17個の遺伝子についても今年度中にWISHが完了する予定である。局在する遺伝子の情報を整理し、他のホヤ綱における局在母性mRNAと比較や機能解析によって運命決定における役割を検討していく。 さらに未受精卵で局在する遺伝子を発見できたことから、「卵形成中に母性mRNAが局在するメカニズム」について研究する計画を立てた。その背景について説明する。まず脊索動物ホヤ綱のマボヤなどにおいては、一部の母性mRNAが未受精卵の時点で植物半球側にやや偏っている。そして受精後に植物半球後方にこれらのmRNAが強く局在し、発生運命の限定などに働くことが知られている。しかし、母性mRNAが未受精卵で局在するメカニズムはこれまで他の脊椎動物においてまったくわかっていなかった。その理由として、マボヤの卵巣は被嚢に包まれているため発達段階を目視できず、また卵形成も遅いため卵巣のサンプルの入手が難しかったということが挙げられる。一方、ワカレオタマボヤの卵巣はほぼ剥き出しであるため目視によって卵形成のステージを判断することが可能であり、さらに卵形成も12時間ほどしかかからないため、サンプルの入手も容易である。これらの特徴を活かして、オタマボヤを用いた母性mRNAの未受精卵への局在メカニズムを解析していく。解析手法としては卵巣切片のin situ hybridizationを用いる。ステージごとの組織切片を採取し、時系列に沿って染色された母性mRNAの動きを観察することによって、mRNAがどのように植物極側に局在していくのかを追跡する。その追跡が成功したら、さらに微小管の免疫染色などとも併せることによって、より詳細な分子メカニズムを解析していく。
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Research Products
(3 results)