2018 Fiscal Year Annual Research Report
世界最高強度パルスミューオンビームを用いた荷電レプトンフレーバー非保存現象の探索
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18J10962
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中沢 遊 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | トリガーシステム / ミューオン / ミューオン電子転換 / 荷電レプトンフレーバー非保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,大強度陽子加速器施設J-PARCにおいて,荷電レプトンフレーバー非保存現象であるミューオン電子転換過程を従来の100倍以上の精度で探索し,標準模型を超える新物理現象を検証することである.感度向上のためにはミューオン源の大強度化が必須であるが,それに伴うイベントレートの増加が大きな問題であった.信号となる電子は磁場中に設置される円筒型ドリフトチェンバー (CDC) で測定する.本研究計画はCDCからの情報を用いた新しいトリガーシステムを完成させ,実験を遂行することである.本年度は,主に「シミュレーションによるトリガーアルゴリズムの最適化」と,「試作機回路を使った接続試験」を予定していた. トリガーアルゴリズム開発では,シミュレーションデータを使っていくつかの機械学習について性能を評価した.結果として,Gradient Boosted Decision Treeを本トリガーシステムに採用した.各種パラメータを最適化することで,99%の信号イベントに感度を持ちながら,最大96%の背景事象を排除可能なアルゴリズムが完成した. ビームの大強度化に伴う高放射線環境が想定されていたため,本年夏までに回路素子の放射線耐性を評価し,国際学会にて結果を発表した.試験結果に基づいて作成した回路を使い,CDCの読み出し回路との通信試験を行った.この読み出し回路は6 us間しかデータを保持できないため,新しいトリガーシステムの遅延時間はこれ以下でなくてはならない.上記と同様のアルゴリズムを回路に実装し,全ての回路をつないだ接続試験を行った.結果として,総遅延時間は2.8 usだとわかり,遅延時間に対して要求値を満たす性能を実証した.最終的にCDC実機の宇宙線試験に実装した.宇宙線用に一部アルゴリズムを変更して,新しいトリガーシステムによる初の宇宙線イベント観測に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
測定器システムのトリガーレート耐性は約3 kHzであるが,現状想定されるトリガー検出器のみを用いたトリガーレートは20 kHzで,要求を満たさない.当初の計画では,新しいアルゴリズムによる背景事象トリガーの排除率は86%であった.本研究の新しいトリガーシステムでは主検出器であるCDCからの情報を使って信号を評価する.本年度の研究では,さらにトリガー検出器の情報も評価に加えることで,背景事象トリガーの排除率を96%にまで向上することに成功した.その結果,トリガーレートは0.8 kHzまで削減でき,要求を満たせるトリガーアルゴリズムの開発に成功している. 本実験は150日間の測定を想定しているが,この間に安全係数を含めて1 kGyのガンマ線と1.0E+12 /cm^2の中性子流量が想定されている.回路の設計を完了するためにも,この放射線レベルに耐え得る回路素子の選定が急務であった.本年度春の実験までで,全ての回路素子に対して要求する放射線耐性を持つものを選定でき,新しいトリガー用回路の試作機も完成した.この回路は,複数のCDC読み出し回路と通信する必要があり,通信の同期が問題となった.それぞれの通信を完全に同期させることは難しいが,同期リセット信号と小さなバッファを加えることで,各回路からのデータのずれを1クロック周期 (8.3 ns) にまで抑えることに成功した.さらに,CDC の宇宙線試験へ本システムを実装し,CDCのセルフトリガーによる初の宇宙線イベント取得にも成功している. このように,ソフトウェア側の開発とハードウェア側の開発の両者で,要求値を十分超えた性能を発揮できた.また,次年度より取り組む予定であった検出器を使った試験にも既に着手済みである.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の回路を使ったトリガーシステム全体の試験によりそのハード的特性を理解した.データの非同期問題はアルゴリズムの性能を下げる可能性がある.現状のシミュレーションでは,これら回路の性能は含まれていない.また,CDCの性能についてもシミュレーションに組み込む必要がある.今後は,回路特性や検出器特性がアルゴリズムの性能にどのような影響を与えるかシミュレーションを使って評価する.処理時間にはまだ余裕があるため,場合によっては新たなロジックを加える. 現状のCDCを使った試験では,使用できる読み出し回路数に制限があり,CDCの一部領域を使った試験に止まっている.来年度夏にはCDCの全領域が使用可能になるため,トリガーシステムで用いる領域もこれに合わせて拡張する.また,トリガー回路は現状試作機であるため,最終版の設計を完了する必要がある.本年度の試験より,回路の変更部分はほとんどなく,「不要な回路素子の取り外し」と「通信用ポート1つを新たに加える」だけだとわかった.これらの変更は2ヵ月程度で完了でき,速やかに最終版に移行する.その後,CDC全領域でのトリガー試験と性能評価を実施し,ビームラインと検出器ソレノイドの完成を待ってインストールし,実験を開始する.
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Research Products
(8 results)