2018 Fiscal Year Annual Research Report
Roquin-2の自然免疫応答におけるサイトカインmRNA発現制御機構の解明
Project/Area Number |
18J11303
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
工藤 勇気 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 自然免疫応答 / Roquin-2 / ユビキチン化 / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
病原体に対する初期の防御機構である自然免疫応答では、免疫細胞より分泌されるサイトカイン産生量がmRNAの誘導・分解の2段階で制御されることで、正常に炎症が進行・収束する。しかし、mRNA誘導・分解の両段階が適切にシフト・移行する仕組みや、互いを協調的に制御する機構はほとんど明らかになっていない。本研究では、ユビキチン化酵素活性とmRNA結合能(結合後に分解に導く)を有するRoquin-2に着目し、この両段階の移行および協調的制御における機能的役割の解明を目指している。これまでの研究から、Roquin-2はストレス応答キナーゼASK1(既知の基質)や多彩な高次生命機能制御に重要なストレス応答キナーゼ分子X(新規同定基質)のユビキチン化・分解を介してサイトカインmRNA誘導を抑制する一方、キナーゼ分子Xによってリン酸化を受けることで効率的なサイトカインmRNA結合・分解が誘導されることが示唆されている。 初年度は、上記の成果を基にRoquin-2リン酸化サイトの探索を行い、実際に同定に成功した。この成果を基に、現在リン酸化抗体の作製に着手している。また、ユビキチン化制御機構の詳細な解析から、Roquin-2のキナーゼ分子Xとの相互作用やユビキチン化に重要な機能ドメインを同定し、ユビキチン化が炎症等のストレスによって産生される活性酸素依存的に起きることを見出した。キナーゼ分子Xは抗酸化機構の活性化にも重要であり、Roquin-2欠損細胞では酸化ストレス時のキナーゼ分子Xのユビキチン化・分解が抑制され、生存が著しく増強されたことから、Roquin-2の酸化ストレス応答における重要性も確認できた。今後は、Roquin-2と基質キナーゼ分子との双方向性の機能制御について、より詳細な分子機構を明らかにするとともに、本制御機構の自然免疫応答における生理的・病理的意義について解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Roquin-2によるキナーゼ分子Xのユビキチン化について、各ドメイン欠損変異体やアミノ酸残基点変異体を用いた解析により、相互作用およびユビキチン化に重要な機能ドメインやアミノ酸残基を同定した。様々な細胞種を用いた検討の結果、HeLa細胞ではASK1、MEF細胞ではキナーゼ分子Xが各々選択的にRoquin-2依存的な分解を受けるという興味深い結果を得ており、Roquin-2のユビキチン化基質選択性が少なくとも細胞種によって異なっていることが示唆されている。基質分子のユビキチン化サイトについては、詳細な検討の結果、複数箇所存在することが示唆されており、現在精査を行なっている。Roquin-2リン酸化サイトについては、多数のRoquin-2変異体発現プラスミドを作製してリン酸化サイトの絞り込みを行った結果、1箇所のサイト同定に至ったため、現在リン酸化抗体の作成に着手している。一方、予想外の成果として、Roquin-2によるキナーゼ分子Xのユビキチン化は、酸化ストレス(活性酸素産生)依存的であることが明らかになった。キナーゼ分子Xは、酸化ストレス時に抗酸化遺伝子の発現誘導によって防御的に作用することが知られているが、実際に、Roquin-2欠損細胞では、酸化ストレス時のキナーゼ分子Xのユビキチン化・分解が抑制され、生存が著しく増強されたことから、本分子のユビキチン化制御の重要性が示されている。一方、Roquin-2骨髄由来細胞特異的欠損マウス作製については、入手した遺伝子改変マウスの凍結胚からの個体復元が、動物管理施設側の過失が原因・問題で大幅に遅延したため、今年度解析に着手できなかったが、現在ちょうど作製が完了した段階で、今後計画通りに解析を進めていく予定である。以上のことから、遺伝子改変マウスの解析のトラブルによる遅延を除き、研究計画に沿って順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
①Roquin-2によるユビキチン化の詳細な分子機構の解析: 基質分子のユビキチン化サイトは複数箇所存在することが示唆されているため、in vitroの実験系導入も検討しつつ同定を行う。同定したリジン残基の変異体の再構築細胞を解析することで、このユビキチン化の機能的重要性を確認する。また、キナーゼ分子Xのユビキチン化については、酸化修飾の関与が示唆されていることから、具体的なキナーゼ分子Xの酸化修飾部位と、修飾の型の同定を目指す。Roquin-2によるユビキチン化基質の選択性が生じる仕組みについても、生化学的解析を中心に、詳細な解析を行う。 ②キナーゼ分子Xによるリン酸化を介したRoquin-2リン酸化の機能的意義の解析: Roquin-2リン酸化部位の変異体を用いた解析から、キナーゼ分子Xとの結合・ユビキチン化、代表的なmRNA基質の分解に対するリン酸化の影響は特に認められていないため、その他のRoquin-2の機能や局在などに対する本リン酸化の寄与を検証する。また、現在作成中のRoquin-2リン酸化抗体を利用し、リン酸化が起きる細胞・組織や刺激条件について明らかにする。 ③Roquin-2による酸化ストレス応答の制御機構の解析: ①で同定を目指すキナーゼ分子Xの修飾部位の変異体を再構築した細胞において、酸化ストレス時のRoquin-2によるユビキチン化・分解や細胞死誘導への影響、さらに、炎症性刺激時のサイトカイン産生への影響についても評価を行う。 ④Roquin-2 による炎症性サイトカインmRNA 発現制御の生理的・病理的意義の解明: 骨髄由来細胞特異的Roquin-2 欠損マウスを用いて、骨髄由来マクロファージなどの初代培養細胞系でのサイトカインmRNA 誘導を野生型由来の細胞と比較し、解析する。また、LPS誘導性敗血症や炎症誘導性がんなどの疾患モデルの病態解析を行う。
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