2018 Fiscal Year Annual Research Report
一軸性ひずみ下での精密磁場侵入長測定を通じたエキゾチック超伝導状態の研究
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18J11307
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹中 崇了 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 非従来型超伝導 / トポロジカル超伝導 / 超伝導対称性 / 磁場侵入長 / 電子線照射 / 不純物効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に極低温精密磁場侵入長測定装置を用いた低キャリア超伝導体における超伝導ギャップ対称性に関する研究において進展が見られた。以下にその概要を示す。 [1.トポロジカル絶縁体への金属ドープで発現する超伝導体SrxBi2Se3]トポロジカル絶縁体Bi2Se3に金属をドープして得られるMxBi2Se3は、超伝導状態において各種物理量が結晶構造の持つ回転対称性を破る「ネマティック超伝導」状態が実現するとして注目を集めている。超伝導状態で、超伝導ギャップが回転対称性を破ることを示唆する結果は多く報告されているものの、一方で超伝導ギャップ構造そのものについては未だに共通見解が形成されるには至っていない。SrxBi2Se3の磁場侵入長測定を行ったところ、この系では超伝導ギャップが大きな波数依存性をを持ち、非常に小さいギャップ極小値を有することを示唆する結果が得られた。さらに電子線照射による不純物導入の影響を調べたところ、ネマティック超伝導状態に対応する超伝導ギャップ対称性において期待される実験結果を得た。 [2.ハーフホイスラー超伝導体LnPtBi/LnPdBi] Biを含むハーフホイスラー超伝導体は、トポロジカル超伝導体の候補物質であるのみならず、j=3/2の電子が対形成し超伝導に寄与する特異な系の可能性があるとして注目されている。本年度は複数のハーフホイスラー超伝導体に対して精密磁場侵入長測定を行った。その結果、組成によって低エネルギー励起の様子が大きく異なること、輸送特性および低エネルギー励起の様子に大きな試料依存性があることを明らかにした。また電子線照射に対する応答を調べたところ、電気抵抗率の温度依存性の変化や超伝導転移温度の分裂、キャリア数の増加などが見られるなど、この系が極めて特殊な超伝導体群であることを示す実験結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
極低温精密磁場侵入長測定装置を用いた低キャリア超伝導体に関する研究は、当初の目的を達成している。 ネマティック超伝導状態が期待されるSrxBi2Se3において、試料依存性も含めた精密磁場侵入長測定及び輸送特性の評価を行ったところ非常に小さいギャップ極小値を有することを示唆する実験結果が得られた。また電子線照射の実験では、電気抵抗率が増大していることから不純物散乱が導入されている一方で、ホール係数からはキャリア数が増大していることを示唆する結果が得られた。電子線照射によって転移温度は減少していることから、この系が非従来型超伝導体であること、キャリア数は転移温度に大きな影響を持たないことが推測される。しかし驚くべきことに、低エネルギー構造は転移温度が半分程度に抑制された状況でも照射前と同じ振る舞いを見せており、これは超伝導対形成機構にスピン軌道相互作用が大きく寄与していることを示唆している。この結果は、ネマティック超伝導状態の実現を支持する。 ハーフホイスラー超伝導体では、キャリア数の違いにより低エネルギー励起構造が変化することを示唆する興味深い結果が得られた。電子線照射によるキャリア数制御の可能性も含め、この系における新たな知見が得られている。 一軸性ひずみ下での精密測定装置については、鍵となるピックアップコイルと試料の間の距離を調整可能な駆動機構の開発に着手した。研究開始当初に想定していた方式の可動機構では極低温下で十分な分解能を実現し得ない可能性が明らかとなり、新たなアクチュエータを用いた方式によるz軸方向への駆動機構の作成を試みた。現在はこのアクチュエータの動作評価及びこれを組み込んだ装置の設計を行っている。歪み導入機構については、所属研究室で同デバイスを利用しているグループと協力して動作確認および評価を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
極低温精密磁場侵入長測定装置を用いた低キャリア超伝導体に関する研究は、高エネルギーの電子線照射による化学ポテンシャルおよびキャリア制御の可能性という研究開始当初に予想していなかった展開を見せている。今後より詳細な実験を進めていくのみならず、理論分野の研究者と連携して理解を深めて行きたい。特にSrxBi2Se3についてはフェルミ面のトポロジーとの関連を含めた、より深い議論が期待されるため、量子振動測定等からフェルミ面の形状に関する実験的研究を展開させる予定である。 一軸性ひずみ下での精密磁場侵入長測定装置の実現に向けては、より高信頼度の実装手法に切り替えたため、現在の方針で懸念事項である駆動機構の開発には一定の成果が得られるものと考えている。一方で、ピックアップコイルの高性能化(高密度化)には改善の余地が残されている。こちらについては、磁気的測定の実験現場で使われている手法を参考にするなどして、高性能化を実現させたい。
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Research Products
(4 results)