2018 Fiscal Year Annual Research Report
TRF2を介したORCリクルートによるテロメア維持機構の特異的変異体を用いた解析
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18J11443
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
比嘉 允宣 九州大学, 薬学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | DNA複製 / DNA複製開始点 / 染色体安定性 / ゲノム安定性 / テロメア / 複製困難な領域 / TRF2 / ORC1 |
Outline of Annual Research Achievements |
H29年度までにORC1との結合のみを欠損したTRF2(E111A/E112A)変異体(以下、TRF2(2EA)変異体)を同定していた。H30年度の本研究における実績概要は以下の通りである。はじめに、TRF2(2EA)変異体と内在性TRF2の置き換えをHeLa株および正常線維芽細胞HFF2/T株で行った。置換方法は、HeLa細胞ではCRISPR-Cas9を利用した遺伝子編集、HFF2/T細胞ではレトロウイルスを利用した遺伝子導入と内在性TRF2の発現抑制を組み合わせて行った。次に、クロマチン免疫沈降(ChIP)-定量PCR(qPCR)法によりTRF2(2EA)置換HeLa株でテロメア結合ORC1量が確かに低下していることを明らかにした。これにより、TRF2-ORC1結合がテロメアへのORCリクルートに重要であることを初めて実験的に示した。さらに、TRF2(2EA)置換HeLa株の複製ストレス誘導剤に対する感受性を調べた。その結果、低容量のヒドロキシウレア処理によってテロメアへのDNA損傷応答因子の集積頻度や染色体異常の指標であるテロメア含有微小核の形成頻度が増加した。これにより、テロメアにリクルートされたORCがテロメア恒常性維持に重要であることが明らかとなった。一方、qPCR法に基づくテロメア長の解析やFACSを利用した細胞周期解析では、TRF2(2EA)置換がこうした表現型に影響を与えるという明確な結果は得られなかった。別の研究グループの過去の論文では、ORCサブユニットの発現抑制でテロメア長が短縮すると報告されている。今回の解析結果は、こうした過去の報告がテロメアへのORCリクルート阻害の直接的影響によるものではない可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、テロメア結合タンパク質TRF2とDNA複製開始タンパク質複合体ORCとの結合の意義を明らかにする事である。これに向けた研究手法として、(1)ORC1との結合のみを欠損したTRF2変異体の同定、(2)同定したTRF2変異体と内在性TRF2を置換した細胞株の樹立および(3)樹立株の表現型解析、の3つの課題に取り組むことを目指した。現在、すでに上記(1)、(2)の課題を遂行し、(3)の課題に着手している。さらに、行うべき表現型解析の中でも、テロメア結合ORC量やテロメア安定性への影響など、重要なものをすでに済ませている。一方、「今後の方策」で述べるDNA複製開始点形成量の解析もすでに着手しているが、再現性のある結果が得られないという技術上の問題にも遭遇している。研究状況を総合すると、当初予定していた解析の大部分が完了しており、おおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の実験を行う事でTRF2(2EA)置換細胞株の表現型解析をさらに進める。(1)TRF2(2EA)置換HeLa細胞において実際にテロメア内DNA複製開始点が減少しているか調べるため、ChIP-qPCR法によりMCM3やMCM7(DNA複製開始点の本体である複製ヘリカーゼ複合体のサブユニット)のテロメア結合量を評価する。上記の再現性の問題を解決するため、現在はモノクローナル抗体を使用した解析を検討している。(2)TRF2(2EA)置換HeLa細胞において実際にテロメアのDNA複製効率が低下しているか調べるため、DNA複製障害の指標と考えられているultra-fine bridgeと呼ばれるM期異常構造やM期染色体展開時の異常なテロメア染色像の形成頻度を測定する。(3)上記解析で得られた結果が別の細胞株でも観察されるか調べるため、TRF2(EE)置換HFF2/T細胞でも同様の解析を行う。以上の解析結果を整理して学会発表および論文発表を行いたい。
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