2018 Fiscal Year Annual Research Report
二次元材料の構造制御とその場計測による熱・電気伝導機構の探究
Project/Area Number |
18J11632
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
楢崎 将弘 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 熱工学 / グラフェン / 熱伝導率 / フッ化 / 電子線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、MEMSにより作製するナノセンサを用いた熱計測技術に、集束イオンビームや電子線、化学的な修飾によるナノスケールの試料の加工技術を組み合わせることで、二次元材料、主にグラフェンにおける熱・電気伝導の構造依存性を調べ、能動的に熱・電気伝導特性を制御することを目的として研究を進めてきた。 当該年度には、基板に支持された状態のフッ化単層グラフェンに電子線を照射すると電気抵抗が低下することを確認し、電気伝導特性を制御することに成功した。 続いて熱伝導特性の制御を目指した。本研究では、電子線照射によってフッ化単層グラフェンからフッ素原子を離脱させることで、熱・電気伝導特性を制御しようとしており、そのためには基板に支持された状態のフッ化単層グラフェンの熱計測をする必要がある。そこでラマン分光法を用いた熱計測に挑戦したが、ラマンスペクトルのピークのシフトを検知することが困難であった。理由として、以下の2つを考えている。フッ化単層グラフェンは基板に支持されているために、発熱体である金属薄膜センサから基板への熱の逃げによって、フッ化単層グラフェンの温度がほぼ上昇しなかったこと、そしてフッ化単層グラフェンのラマンスペクトルのピークは幅が広いため、小さな温度上昇を検知するのにはあまり適さないということである。 その後、分子動力学法を用いてグラフェンにおける熱伝導の理論的研究を始めた。単一空孔欠陥を導入した単層グラフェンの熱伝導に関して、例えば、グラフェンを熱電材料として応用するために欠陥を導入して熱伝導率を低下させる技術の開発に役立つ新しい知見を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基板に支持されたフッ化単層グラフェンにおいては、電子線を照射することで電気伝導特性を任意に制御することに成功した。その一方で、熱伝導特性の制御については問題点を把握することができた。分子動力学法による理論的な研究からグラフェンにおける熱伝導の制御に関して新たな知見を得ることができた。 以上から、おおむね順調に研究進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究から、フッ化単層グラフェンの電気抵抗の低下のためには、基板に支持された状態で電子線を照射することが有効であるとわかった。基板での反射電子や基板からの二次電子がグラフェン表面に結合していたフッ素原子を離脱させたものと考えている。 そこで、グラフェンを巻いた構造をもつ多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(直径約100 nm)、あるいはグラフェンをより合わせた繊維から成る構造をもつカーボンナノファイバー(CNF)(直径約200 nm)であれば、熱計測のために基板から浮いた状態であっても、フッ素と電子線を用いた微細な構造変化による熱制御ができるのではないかと考えている。そこで、試料(MWCNTあるいはCNF)をフッ化キセノンガスにさらすことで試料のフッ化を試み、ラマンスペクトルを比較することでフッ化を確認する。その後、白金薄膜センサを用いた試料の熱計測と、フッ化キセノンガスと電子線を用いた試料の熱制御を組み合わせる。 また、並行して、周期的、あるいはランダムに配置された空孔欠陥を有する単層グラフェン中の熱伝導を分子動力学シミュレーションによって行う。本年度は、(1)計算セルの大きさは十分かを確認し、(2)さらに欠陥の配置を変化させたときの熱伝導率の変化を計算し、(3)熱キャリアであるフォノンの振動モードに依存した熱伝導機構を調べることで考察を深めることを計画している。
|