2018 Fiscal Year Annual Research Report
構造多型の弁別を軸とした植物光受容蛋白質シグナルカスケードメカニズムの解析
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18J11653
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大出 真央 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 蛋白質動態解析 / X線小角散乱 / クライオ電子顕微鏡 / 光受容蛋白質 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず申請者はX線小角散乱法(SAXS)とクライオ電子顕微鏡法(cryoEM)を組み合わせた蛋白質動態解析スキームを開発すべく、水溶性酵素蛋白質グルタミン酸脱水素酵素(GDH)ドメイン運動についてcryoEMによる溶液中での構造変化の解析を行った。GDHは2つのドメインから構成されるが、解析の結果、ドメインの相対位置の異なる複数の準安定構造が近原子分解能で得られ、中には結晶構造解析では得られなかった構造も存在した。また、分子動力学(MD)計算でサンプリングされた構造との比較を通してGDHドメイン運動の自由エネルギー地形の推定に成功した。cryoEM構造から推定された運動はMDでの運動と一致したものの、各構造の相対出現頻度はcryoEMとMDで大きく異なり、既存のMDでは現実の系における動態を限られた計算時間で再現するのは極めて困難である、という知見が得られた。これら結果をまとめ学会でポスター発表を行い、また論文を現在投稿中である。 並行して、本研究の目的蛋白質フォトトロピン(phot)と類縁のフィトクロムB(phyB)についてSAXSによる解析を試みた。phyBは不活性な赤色光吸収型(Pr)と活性のある赤外光吸収型(Pfr)型の二状態を取り、光吸収によって相互に変換される。そこでまずPr型について単分散なSAXSプロファイルを取得し分子概形を推定したところ、全長150ÅのX字型の二量体構造が得られた。先行研究で明らかになっている光受容モジュールの二量体結晶構造を分子概形に重ね合わせたところ、溶液中での構造は結晶構造と異なり光受容モジュールがより開裂した構造であった。また、赤色光照射下Pr-Pfr混合状態のSAXS測定ではPfr型での光可逆的な非特異的凝集が観測された。この凝集は赤色光吸収に伴う相互作用特性の変化によるものであり、phyBの機能発現に重要な役割を果たすと考えられる。これら結果をまとめて論文を投稿した。また学会にて発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における具体的な課題は(i)蛋白質の動態解析スキームの開発、(ii)phot高分解能構造解析条件の検討、(iii)複合体の精製と構造解析、の三点であるが、当該年度は計画書の通り(i)、(ii)に注力し、概ね順調に進展した。 (i)についてはcryoEMによってGDHの全体構造を得た後、構造が安定な領域(中心部分)と中心部分に対して相対運動をする領域(運動部分)に分けた上で運動部分について構造弁別を行うことで複数の準安定状態を取得に成功した。この際、GDHについては中心部分と運動部分が既知であることが重要であった。従って、「SAXSによって中心部分と運動部分を事前に決定した上でcryoEMによる構造弁別を行う」という提案スキームが極めて有効であることが確認でき、(i)については当該年度の目標を達成できた。 (ii)についてはphotの構造解析にこそ至らなかったものの、類縁蛋白質であるphyBについて進展が見られた。まずPr型phyBについて不明であった全体形状を推定し、さらにPfr型での非特異的凝集を観測した。この凝集性とphyB自体の不安定な性質を考慮し、Pr型での化学固定後にcryoEM観察を行ったところ、凝集等のない単分散なcryoEM観察像が得られた。観察像のコントラストは低いものの、準備的な解析で8Å分解能の二次元投影像が得られており、今後の解析で高分解能な三次元構造が得られることが期待できる。また、phyBの凝集しやすく不安定であるという性質はphotと共通したものであるため、phyBの構造解析を通して得た知見はphotの構造解析にも援用可能である。従って、(ii)についても当該年度の目標を概ね達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(i)については提案スキームの有効性を確認できたため、今後はさらなる動態解析手法についての検討を行う。提案スキームの動態解析法は複数の離散的構造への分類を通して構造変化を可視化する、という方法であった。今後は連続的な構造変化の可視化、あるいは蛋白質構造変化の自由エネルギー地形の可視化の手法を検討していく。所属研究室では多様体解析と呼ばれる数学的手法を用いて蛋白質の連続的構造変化を解析した先行研究が存在するため、これを参考に具体的処方を考えていく。 (ii)については当該年度でphyBについてのcryoEM観察条件検討を進め、化学固定が有効であることを確認した。従って今後はphyBのcryoEM観察条件をphotに適用することでphotの構造解析を進めていく予定である。また、photとphyBは光受容蛋白質であることや構造の不安定性など多くの性質を共有しているが、これまでの研究を振り返るとphyBはphotよりも多少扱いやすい試料である、という印象を抱いている。そのため、phyBについての解析も継続して行い、光受容に伴う動態の解析もphyBについて解析した後その知見をphotの解析にフィードバックする、という方針で進めていく。 (iii)についても(ii)と同様phyBによる先行解析を行い、それに基づいてphotの解析を行う、という形で進める。幸いにしてphyBもphotと同様に相互作用蛋白質を有しており、この蛋白質と複合体を形成すると考えられている。よってまずはphyBについて複合体試料の精製方法、cryoEM観察条件を検討していく予定である。特に化学固定法は課題(ii)において蛋白質の安定化に効果を発揮したため、この課題においても有効であると期待している。
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