2018 Fiscal Year Annual Research Report
Toward an integrated theory of risk and time preferences
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18J11832
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
芝 正太郎 早稲田大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 時間非整合性 / 遅延付きリスクくじ / 異時点間選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,個人のリスク選好(リスク寛容性)と時間選好(短気さ)を統合的に理解し,また二つの選好において「非合理的」とされる既存モデルからの逸脱(確実効果,現在効果)の相互関係を明らかにするために,リスク選好の理論モデルを時間軸上に拡張することである.そのために,実験室実験を通じて複数利得くじに対する異時点間選択を調べ,リスクと遅延に対する評価の相互関係を明らかにする. 本年度は,z-treeを用いて120人程度の被験者を対象に実験室実験(アンケート)を実施した.実験では,「二つの将来利得のどちらかが実現する」というくじへの選好をHolt and Laury (2002)法を用いて尋ね,くじのリスク・遅延がどのように意思決定に影響するのか調べた.実験の結果,選択肢のリスク差の大小が時間選好(短気さ)に影響することや,より安全なくじが先に手に入るか後に手に入るか(時間的順序)が選択に強く影響することなどを確かめた. また今回の実験では,遅延の選好への影響として,「遅延リスクに対する寛容性増加」と現在効果の関係を分析することも目指していた.しかしながら,どちらも多くの実証研究で報告されている現象であるにもかかわらず,我々の環境ではほとんど現れなかった.実際,約60-80%の被験者が一貫して遅延の変更に反応しなかった.なぜ遅延の影響が消えたのか,先行研究との違いのどれが決定的に効いたのかを目下検討中である. またこの結果は,確実な利得への異時点間選択における頑健な傾向として知られる「時間非整合性」が,リスクくじに対して消えてしまったことも示唆している.時間非整合性についての成果を査読付き学会(来年度7月)にて報告する予定.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,リスクくじへの異時点間選択について,実験を通じて時間非整合性の有無・方向について個人レベルで測定を行った.また,データの分析により遅延の長さ・リスクの大きさが意思決定に与える影響を検証した.これらの研究活動は概ね事前の計画通りに実施できたといえる. 他方で,実験の結果は関連の先行研究とも接続が悪く,事前に予想していた枠組みで解釈することが難しかった.従って本研究の結果と先行研究とを包括的に説明するためにどのような仮説が必要か,目下検討中である.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本年度の成果をもとに,異時点間のリスク選択に関する意思決定モデルの開発に取り組む.具体的には,Baucells and Heukamp (2010)やNoussair and Wu (2006)らの発見に加え,くじのリスクが大きくなるほど時間非整合的振舞いが小さくなることも説明するモデルを完成させる予定である. ただし,元来計画していた非線形確率荷重効用モデルの時間上への拡張という方針では,従来研究と本年度の発見を同時に説明することが困難であるとわかった.従って上を達成するためには新たなモデルの枠組みを検討しなければならない. 以上から,来年度はまず,本年度のデータの分析をさらに深め,どのような枠組みがモデル開発のために望ましいのか検討を続ける.また,学会・セミナー参加を通じて積極的に他の研究者から意見を集める.モデルの枠組みが固まり次第,研究計画通りに,モデルの開発・追加実験の実施を行い,論文に纏める予定である.
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