2018 Fiscal Year Annual Research Report
テラヘルツ光パルスを用いたSTM超高速単一分子発光分光法の開発
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18J11856
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木村 謙介 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 単一分子発光測定 / 励起状態 / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた単一分子発光測定手法に、テラヘルツ(THz)光パルスを用いたトンネル電流制御技術を組み合わせて、STMをベースとした単一分子時間分解発光測定を実現することである。 STM発光測定は、STM探針から単一分子へ電荷注入にして分子の励起状態を形成し、励起状態からの緩和過程で得られる発光スペクトルを分光検出する手法である。この手法を、銀基板上に成長したNaCl絶縁体膜上に吸着した3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)分子に対して適応し、低電圧において三重項励起状態が選択的に形成されるという新規現象を発見した。2018年度は、この現象に関して追加実験および理論計算を行って学術雑誌に投稿し、採録が決定した。 このようにSTM発光分光法は、単一分子レベルで励起状態形成を詳細に調べる事ができる手法である。一方で、従来のSTM発光分光法では積算して発光スペクトルを得るため、励起状態寿命など励起状態の時間的な変遷を測定することは出来なかった。そのため、本研究ではSTM発光測定手法にTHz光を用いた瞬間的にトンネル電流を制御する技術と組み合わせて、新規なSTM超高速分光法を開発し、励起状態寿命の測定を目指し、2018年度はSTM内部の改造とTHz光の発生に取り組んだ。 2019年度には、分子と金属原子の配置制御を通して、重原子効果による三重項励起状態の寿命制御実験を計画している。その研究展開を見据えて、PTCDA分子と金属原子が共蒸着できるような蒸着器を作製し、金属・分子の蒸着に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的に従って「(1)低電圧における三重項励起状態の選択的形成の解明と学術論文に投稿」「(2)分子・金属共吸着用の蒸着器作成」「(3)STM内部をTHz仕様に改造」「(4)THz光の発生」の4点に取り組んだ。 (1)に関しては、学術雑誌への採録が決まり、十分な成果を上げたと言える。また、(2)の分子・金属を両方蒸着できる蒸着器の作成も完了しており、この2点は予定通り進行した。 (3)のSTM内部の改造は、STM内部に可視光およびTHz光を利用できる樹脂レンズと窓を選定し、超高真空・極低温下で従来のSTMの性能をほとんど落とすことなく利用可能であることをテストした。しかし、レンズに関しては4.7 Kまで冷やした際に焦点距離が変化するという、当初予期していなかった問題に直面した。 (4)のTHz発生に関しては、商用化されている櫛型電極を購入して、所有するフェムト秒超短パルスレーザーによりTHzパルスの発生に成功した。単一分子の励起状態を形成できる強度のTHzパルスを得ることはできなかったため、光源および光学系の最適化を行う必要があるものの、THzパルス発生という最も重要な課題で一定の成果を上げられている。 以上を全体的に加味して、進捗状況を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
前述した目的を達成するために、本年度は(1)THz-光STMの改良および(2)単一分子発光寿命測定の実現を目指す。 (1)2018年度の研究では、THz-光STMの立ち上げのためにSTMの改造を行った。STM内部に可視光およびTHz光を利用できる樹脂レンズを選定したが、極低温まで冷やした際に焦点距離が変化するという問題に直面した。現状のレンズ固定方式では、位置調節ができないため、極低温に冷やすことによる樹脂レンズの変化も加味した内部設計を行い、再度装置改造を行う。また、STMチャンバー窓部分の有効径が小さいため、偏心短管を設計して、出来るだけロスを減らしてTHzをSTMに導入できるようにする。 2018年度は、THzパルスの発生に成功した。しかし、単一分子の励起状態を形成できる強度のTHzパルスを得ることはできなかったため、光源および光学系の最適化を行う必要がある。実際、櫛型電極のカタログスペックの10%以下しか出力を得ていないため、光学系の調整がいる。また、室内の湿度が40%ほどとやや高く、空気中の水によりTHzパルスが減衰している。したがって、光学系全体を窒素パージできるように、光学系全体を再検討しなおす。 上記2点の課題を克服することでTHz-光STMを改良し、THzパルスが誘起する単一分子発光の観測を目指す。 (2)単一分子発光寿命測定の実現を目指すために、発光検出系を改良する。具体期には、所属研究室が保有するアバランシェフォトダイオード(APD)と時間相関単一光計数 (TCSPC)モジュールを組み合わせて、PTCDA単一分子のりん光寿命測定および寿命制御を実現する。
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