2018 Fiscal Year Annual Research Report
電気化学と一細胞解析によって見出された新規嫌気アンモニア酸化代謝の機構解明
Project/Area Number |
18J11933
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 淳貴 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | S. oneidensis MR-1 / 嫌気アンモニア酸化 / 一酸化窒素 / 脱窒 / 細胞外電子移動 / 微生物燃料電池 / Pseudonomas denitrificans / 廃水処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Shewanella oneidensis MR-1によるアンモニア酸化の機構解明を目指している。この反応は無酸素環境で進行するが、生成物として酸素原子を含む一酸化窒素(NO)が生じるため、酸素源となる反応物を探索した。培地の緩衝剤を炭酸水素ナトリウムからTAPS(安定で反応に関与しない)に変更して実験を行ったところ、変更前と同様のNO生成が見られたこと、及び酸素源となる主な溶質は炭酸水素ナトリウムのみであることから、水が反応の酸素源であることが示唆された。さらに、酸素を同位体標識した水の同位体18O-H2Oを添加した条件で実験を行い、質量分析により生成物を測定した結果、18Oを含むNOの生成が確認された。この結果より、反応生成物の酸素源は培地中の微量成分(例えばモリブデン酸塩)や、大気から反応容器中に漏れこんだ酸素分子ではないことが示された。MR-1によるアンモニア酸化に関わる反応物質を特定できたことは、この反応の機構解明に近づく大きな進展だと言える。 また、生成物であるNOは外膜電子伝達タンパク質に結合し、電子移動を阻害することが知られているため、NOを無害なN2へ還元できるPseudonomas denitrificansをMR-1と共存させることにより、反応の阻害が緩和されるか検討した。NOの蓄積が予想されるアンモニア酸化電流減少中にPseudonomasを添加した結果、電流値が大幅に増加した。この結果は、自然界でも同様の共生的アンモニア酸化が進行している可能性を示唆する他、この反応を工業的に利用する際の反応効率改善の指針を与えるものである。また、蛍光in situハイブリダイゼーション法により、電極上のそれぞれの菌の分布を観察した結果、電流生成を行うのはMR-1のみであるにも関わらず、MR-1と同程度の数のPseudomonasが電極上に見られた。これは、PseudomonasがNOを利用するためにMR-1の近傍に好んで存在していることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り、Shewanella oneidensis MR-1によるアンモニア酸化において酸素源として利用されている物質を特定できた。また、NOを無害化するPseudonomas denitrificansをMR-1と共存させることにより反応を促進するというアイデアについて検討し、うまく機能することが確かめられた。以上より、研究はおおむね順調に進展しているといえる。なお、蛍光in situハイブリダイゼーション法により2種の菌の分布については確認できたが、ナノワイヤの形成などの相互作用は見られなかったため、この反応促進の機構解明は今後の課題である。また、2019年度の研究に使用する、DNA内に無作為な遺伝子変異を導入したMR-1の変異株ライブラリーの作製も行った。 なお、アンモニア酸化とは直接関係しないものの、高分解能二次イオン質量分析(NanoSIMS)を使った測定により、MR-1の集団内における各個体の代謝について興味深い現象が観測できたので、これに関する分析も進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
MR-1株の変異株ライブラリーからアンモニア酸化を行わない変異株を選出し、破壊された遺伝子を分析することで、アンモニア酸化を担う目的遺伝子を特定する。まずは寒天培地を用いた選別を試すが、これがうまくいかない場合には、NO検出用蛍光試薬とセルソーターを用いた選別法を用いる。なお、後者の方法を用いた場合には目的変異株とそれ以外の株の混合物が得られると考えられるため、次世代シーケンサーを利用する事により、元の変異株ライブラリーと比べて増加した変異挿入箇所を探すことにより、目的遺伝子を特定する。アンモニア酸化を担う遺伝子を明らかにできた後は、類似の遺伝子を持つ微生物種を探索することで、Feammoxとの関連を検討する。また、塩基配列から予想されるアミノ酸配列を元に、新規アンモニア酸化代謝の反応機構にも迫る。 また、2018年度に観測されたMR-1の代謝に関する現象についても解析を進め、アンモニア酸化とともにそれぞれ論文にまとめる予定である。
|
Research Products
(5 results)