2018 Fiscal Year Annual Research Report
有用菌を主とする乳腺組織内細菌叢の発達を支える腸管を基軸とした細菌供給機構の解明
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18J11990
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
新實 香奈枝 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 細菌叢 / 免疫グロブリンA |
Outline of Annual Research Achievements |
粘膜面に常在する細菌叢は、病原性微生物の感染を防御するほか体内の免疫や代謝を制御する中枢として機能することが知られている。本研究員は、これまで哺乳動物に必須とされる乳腺組織において母乳の合成が盛んとなる授乳期に細菌叢が形成されることを初めて明らかとしてきた。しかしながら、乳腺組織内で形成される常在細菌叢が乳腺に備わる免疫機能や生理機能に関与するのか、その特徴は未だ明らかとされていない。そこで、平成30年度は乳腺組織の機能に対する常在細菌叢の特徴を明らかにすべく、細菌叢と同じく授乳期の乳腺組織内で発達する免疫グロブリンA(IgA)産生と乳汁合成に着目し、常在細菌の有無による免疫および生理因子の変動の調査を実施した。具体的には、SPFまたは無菌環境で飼育した授乳期のBALB/cマウスから乳腺組織を回収し、mRNAを抽出後にIgA産生または乳汁合成関連因子の遺伝子発現をrealtime_PCRにより測定した。その結果、SPFまたは無菌環境で飼育したマウスの乳腺組織内において、IgA産生と乳汁合成関連因子は同程度の遺伝子発現が認められ、乳腺内の常在細菌は組織に備わる免疫および生理機能と非依存的な関係性を有することが明らかとなった。このような乳腺組織内の細菌叢に関する特徴は、原著論文「Development of immune and microbial environments is independently regulated in the mammary gland.」として国際誌に掲載し、高い評価を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当研究員は平成30年度に実施した研究を通して、乳腺の細菌叢が組織に備わる免疫および生理機能と非依存的に発達するという特徴を明らかにし、この発見は原著論文として国際誌で公表した。また、乳腺内に存在する常在細菌の役割に関して発展的な研究を実施し、新たな知見も得られた。 近年の常在細菌叢に関する研究では、母乳中に多様な微生物が存在することが報告されており、乳腺内に存在する微生物は母乳中へ移行することが示唆された。このような微生物は恐らく、哺乳を介して仔の腸管へと移動し、仔の腸内細菌叢や免疫系の発達に寄与すると考えられる。そこで、平成30年度には乳腺組織内の常在細菌に関する発展研究として母体由来の微生物が仔の腸管免疫系に関与する知見を得るべく、無菌マウスや、抗生物質投与により母体の微生物環境を攪乱させたマウスを用いた実証実験を行った。その結果、母体の微生物環境が欠失または攪乱すると、その母乳を摂取した仔の腸内において離乳後のIgA産生が正常ではないことが示された。これは、母体由来の微生物がIgA産生を含む仔の腸内環境の形成に必須であることを示唆するものである。しかしながら、母体由来の微生物が仔の腸内環境形成にどのように作用するのか、その具体的要素は特定されておらず更なる研究が必要とされる。そのため、今後は実証実験で得られた知見を基に、母体由来の微生物と仔の腸内環境の関係性を追求する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、仔の腸内環境形成における母体由来微生物の働きの解明を通して、仔の健全育成を可能にする母体内の微生物叢制御に向けた学術基盤の形成を目指す。そのために、離乳後の仔の腸内で産生されるIgAの微生物に対する特異性と、母体が有する微生物叢との関係に焦点を当てた実験を実施する。 まず、離乳直前の授乳期および離乳直後の仔の腸管内で産生されるIgAの微生物に対する特異性を明らかにすべく、自身が有する、あるいは母体の腸管内に生息する微生物を認識するIgAの特異性を明らかにする。具体的には、仔の糞便中のIgA-微生物複合体に加え、授乳期の母体から糞便を回収し、懸濁液を作成後、その実仔から回収した糞便上清中のIgAを懸濁液中の母体内微生物と反応させたIgA-母体由来微生物複合体を、抗IgA抗体を用いたMACS法によって回収する。その後、精製した複合体より微生物由来ゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンサーに供することで、IgAの特異性を明らかにする。 さらに、母体由来の微生物によって誘導される仔の腸内IgAが自身の腸内細菌叢の構築に寄与することを実証する。そのために腸管管腔内へのIgA輸送に関わるpolymeric immunoglobulin receptorを欠損するマウス(PigR欠損マウス)および野生型マウスを用意する。そして、腸管でIgAの産生が開始される離乳後の両マウスから経日的に糞便を回収し、DNAを抽出後、次世代シークエンサーを用いた微生物叢のメタゲノム解析に供することで、PigR欠損マウスと野生型マウスの細菌叢構成を比較検討する。上述した過程で得られた成果は、国内学会で報告するほか、原著論文として公表する。
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Research Products
(5 results)