2018 Fiscal Year Annual Research Report
非標準葉序の成因の解析を通した植物側生器官位置決定機構の新たな枠組みの探究
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18J12309
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
米倉 崇晃 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 葉序 / 数理モデル / コンピュータシミュレーション / 器官新生 / 発生 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、非標準的な葉序であるコクサギ型葉序(180°、90°、180°、270°の開度周期を有する葉序)・コスツス型葉序(開度が60°を下回るような螺旋葉序)の成因の解明を通して、標準葉序だけを対象にしていたのでは見えてこなかった植物側生器官位置決定機構の新たな枠組みを描こうとするものである。本研究ではコクサギ(ムクロジ目ミカン科)およびコスツス(ショウガ目コスツス科)を研究材料として用いている。 本年度(平成30年度)は、コクサギ型葉序、コスツス型葉序の生成機構を数理モデルで明らかにするためのシミュレーション系、および実験的に検証するための系を確立することを目的として次を行った。まず、コクサギ型葉序を植物ホルモンのオーキシンとその極性輸送との関係の中でどのように生成を説明できるかを検討するため、放物面を模した茎頂でのオーキシン極性輸送再編モデルのコンピュータシミュレーション系を構築し、コクサギ型葉序生成機構をオーキシン極性輸送再編モデルで検討する基盤を作った。また、主要なオーキシン排出キャリアタンパク質であるPIN1のcDNAの単離に成功し、免疫染色への足掛かりを得た。コスツス型葉序については、コスツスの実験室での種子からの栽培に成功し、葉序の形態学的パラメータを取得したことで、コスツス型葉序の持つ特徴を新たに発見した。また、その形態学的特徴を踏まえて数理モデルを作成し、コンピュータシミュレーションを行ったところ、これまで生成が見られなかった別の葉序パターンの生成を発見するに至った。さらにこの新たな葉序パターンがショウガ目でみられることを発見し、予備的な数理モデルが妥当なものであることを見出した。 以上の結果について、3つの国内学会で口頭発表・ポスター発表を行い、活発な議論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コクサギ型葉序生成を許容する機構の解明については、単離したコクサギPIN1ホモログcDNAのシーケンス結果から、既存の抗体ではコクサギの免疫染色が極めて困難であることが判明し、残念ながら年度内にコクサギの免疫染色を行うことはできなかった。しかし同時に、抗体作製の足掛かりを得ることができたため、今後の抗体染色の実施に期待できる。またその間に、放物面に近似した茎頂におけるオーキシン極性輸送再編モデルを実行する場の構築を行い、今後の数値計算解析の基盤を構築することができた。これらにより、本研究の目的の一つであるコクサギ型葉序生成を許容する葉序生成機構の分子基盤の解明に向けた整備を進めることができたと考えている。 一方、コスツスの形態観察から、これまで報告されていなかった興味深い特徴を掴むことができた。また同時に、コスツスの実験室内での種子からの生育に成功したため、今後葉序パターン形成の初期過程の観察が可能となる。さらに新モデルの構築により、コスツス型のみならず、別のパターンの生成にも初めて成功した。改めて調べてみたところ、このパターンはショウガ目のほかの種でも見られることが判明した。このことは、新モデルの妥当性を示唆する結果であり、図らずもコスツス型葉序生成機構の解明に向けて大きく前進する結果となった。なお、シロイヌナズナからコスツス型葉序を持つ変異体を単離する試みは、有望な株が見つからず、また数理モデルによる解析からもシロイヌナズナで変異体を得ることは困難であることが示唆されたため、中断となった。 以上のことから、一部未達成の計画はあったものの、予想外の結果から大きく進展した計画もあり、全体として概ね期待通りの成果を上げたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、コクサギPIN1ホモログのcDNAは単離できたものの、免疫染色には至らなかった。そのため、単離したcDNAを用いて抗体の作製を行い、次年度に延期となった免疫染色に供することとする。これによりPIN1のコクサギ茎頂での動態を明らかにすることを目指す。また同時に、本年度に基盤を構築したオーキシン極性輸送再編モデルのシミュレーションを行い、前述の茎頂動態と比較することで、PIN1の動態とコクサギ型葉序生成機構の関係を明らかにする。 本年度において、コスツスの種子からの実験室内での生育に成功したため、次年度には葉序パターン生成の初期過程について詳細に観察することを計画している。また、ショウガ目で他の葉序パターンを示す種について、その茎頂を詳細に観察し、形態学的解析を行うことを計画している。これらの詳細な解析結果を新モデルと照応することで、これらの葉序パターンの生成機構への理解が進展することが期待される。同時に、当初計画していた通り、コスツスに対する茎頂操作が可能かどうかの検討を行う。 また、本年度において新モデルの構築に成功し、およびその妥当性が示唆されたため、パラメータ網羅的なシミュレーションを行い、あらゆる葉序パターンがどのような状況で生じるのかを徹底的に解析することを計画している。
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Research Products
(3 results)