2019 Fiscal Year Annual Research Report
自己の高齢者化意識がエイジズムに与える効果 -自己の将来としての高齢者像ー
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18J12472
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
竹内 真純 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エイジズム / 老いに対する態度 / 高齢者 / サクセスフル・エイジング |
Outline of Annual Research Achievements |
第1に、加齢によるエイジズムの変化を明らかにするため、東京大学SSJDAに寄託されている「全国高齢者パネル調査」の二次分析を行った。潜在クラス分析及び重回帰分析の結果、①多くの人は高齢になっても老いに対する態度がポジティブに保たれているが、2~3割の人は高齢になるほど老いに対する態度が悪化すること、②70代以降に老いに対する態度が急激に悪化する傾向があること、③教育年数が短い人に老いに対する態度が悪化する傾向があること、④老いに対する態度が悪化した人ほど、20年後に死亡率が高いこと、が明らかになり、老いに対する態度がネガティブになることで将来の健康が損なわれる可能性が示された。この研究結果は6月に仙台で行われた日本老年社会科学会にて発表した。 第2に、2018年度に英文雑誌に投稿した論文に対する査読コメントへの対応として、35~64歳120名を対象とした実験を実施した。具体的には、年齢に対するアイデンティティの強さを操作し、エイジズムに与える影響が異なるかを検討した。 第3に、中年および高齢者の年齢意識の実態を把握するため、口頭でのインタビュー及び自由記述を用いた質的調査を行った。具体的には、自分がどの年代(若者/中年/高齢者)だと思うか、その理由、その年代だと実感した経験、日常生活における高齢者との関り方等について尋ねた。データは3名のコーダーによってコーディングを行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。 第4に、エイジズムとサクセスフル・エイジングの関係を明らかにするため、文献研究、およびデータ分析を行った。文献研究については、約150の文献をレビューし、レビュー論文を執筆・投稿した。データ分析については、レビュー結果をもとに「全国高齢者パネル調査」の二次分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、自分が高齢者になると意識することがエイジズムに与える影響を検討することを目的とし、本年度は①二次分析によって加齢に伴うエイジズムの変化を明らかにすること、②質的研究によって当事者の年齢意識の実態を把握すること、③エイジズムがサクセスフル・エイジングに与える影響を明らかにすること、④2018年度に構築したエイジズムの統合モデルを実証すること、の4つを大きな目的としていた。 このうち①については、大規模縦断データの二次分析によって加齢に伴うエイジズムの変化を明らかにし、日本老年社会科学会にて発表を行った。 ②については、当初はインタビュー形式の調査を予定していたが、インタビュー協力者を確保するのが困難だったため、自由記述方式による調査を併用した。自由記述方式の調査に対しては約60名の協力を得られた。この調査によって、中年から高齢者へ変化する際の年齢意識の実態を、当事者の記述した言葉を通して理解し、当初の目的を達成できた。 ③については、まず文献研究を行い、これまでのエイジズム研究とサクセスフル・エイジング研究の関わりを明らかにした。この研究についてはレビュー論文を執筆・投稿した。次に、大規模縦断調査の二次分析を実施し、エイジズムがサクセスフル・エイジングの実現を妨げることを明らかにした。 ④については、2018年度に投稿した論文に対する査読コメントへの対応として、新たに120名を対象とした実験を実施した。この実験結果はエイジズムの統合モデルからの予測に沿うものであり、モデルの補強が行われた。しかし、統合モデルの実証のために本年度実施する予定だった一般サンプルを対象とした社会調査については、本年度後期に実施する予定であったため、10月の研究中断の時点では未だ実施に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、現在までに構築したエイジズムの統合モデルについて、一般サンプルを対象とした社会調査を実施し、データによるモデルの実証を行う。具体的には、神戸市在住の40~69歳の男女1500人程度を対象に、ランダムサンプリングを用いた郵送調査を実施する予定である。調査項目については、エイジズム、加齢不安、年齢アイデンティティについてを中心に、2019年度に質的研究によって明らかになった当事者の年齢意識に関わる事項を基に調査項目を追加する。2020年度10月より準備を行い、調査対象者の選出、調査項目の選定と調査票の作成、倫理審査を行う予定である。11月後半から調査の実施、1月より分析を実施することを計画している。 第2に、現在までに二次分析によって明らかにした、エイジズムがサクセスフル・エイジングに与えるネガティブな影響について、英文論文を執筆・投稿する。
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