2018 Fiscal Year Annual Research Report
交通渋滞の縮約表現に着目した大規模ネットワークの動的階層化による制御手法の研究
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18J12493
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐津川 功季 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 交通工学 / 交通ネットワーク / 動的均衡配分 / 安定性解析 / ゲーム理論 / MFD / ネットワーク・スループット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,時空間的に変動する道路ネットワーク上の交通渋滞に対して,空間的な渋滞パターンの縮約手法に基づく交通制御法を構築することである.具体的には,次の3つの研究を遂行する:1. 渋滞パターンに基づくネットワーク性能解析理論の構築,2. 解析理論に基づく渋滞リンクの容量制御方策の構築,3. 渋滞延伸を考慮した制御アルゴリズムの構築.
本年度ではまず,本研究の基盤理論である動的配分理論の数理特性を調べた.具体的には,ネットワークが特殊な多起点多終点構造を持つ「unidirectional network」であるとき,各利用者が自身の旅行時間を常に改善しようと経路を変更する交通流のday-to-day dynamicsが,初期状態に関わらず均衡状態へと収束することを理論的に証明した.また,利用者の行動にミス(i.e., 旅行時間を改善できない経路への変更)が含まれる場合でも,長期的な繰り返しの中で頻繁に観測される交通状態である確率的安定性を有する均衡状態が存在することを証明した.これらの結果は,観測される渋滞パターンが均衡状態にあることを仮定する本研究の性能解析理論の妥当性を理論的に示すものとなる.
次に,準備期間に構築した単一起点・単一終点ネットワークでのネットワーク性能解析理論をunidirectional networkへと拡張した.渋滞パターンが定常状態にあるときに各終点からネットワーク外へ流出しうる交通量であるネットワーク・スループットを求める解析式を導出した.これにより,混雑したネットワークの性能を決定づけるリンクを特定し,その感度分析からスループットを改善する制御ロジック(i.e., どのリンク容量を増強・制約すべきか)を導出できるようになる.この研究を通じて,ネットワーク全体性能を改善するための制御に対し,有用な知見を提供できると思われる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,当初の研究実施計画の内容を一部達成した上で,当初想定していなかった,本研究の基盤理論である動的配分理論の安定性を理論的に解析することに成功している. また,本年度,および次年度は研究実績の概要で示した 2. 3. に関する研究を予定していたが,計画を変更し,本研究の準備期間である平成29年度に関連議題を前倒しして実施できた.ここでは理論解析から得られた提案制御ロジックが,リンク容量の変化を通して利用者の経路選択を望ましい方向へ導くことにより,実現するネットワーク・スループットと遅れ時間を改善していることを数値実験から確認している.また,ネットワーク内のリンク容量を制御する提案制御方策に,ネットワーク外からの交通量を流入する制御を組み合わせた,階層的な制御方策を構築した.そしてこの制御方策が,提案制御に基づきネットワーク容量を改善するとともに,流入制御により終点部への待ち行列延伸(先詰まり,ブロッキング)に起因するネットワーク容量の低下現象を防止できることを,数値実験から示した. 一方で,本研究のネットワーク解析理論を多起点多終点の一般ネットワークへと拡張することは,限定的にしか実現できていない. 従って,研究課題全体としては,おおむね順調に進行していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,研究実績の概要に記載した1の議題である渋滞パターンに基づくネットワーク性能解析理論の構築について,多起点多終点の一般ネットワークへの拡張を中心に研究を遂行していく予定である. また,2. 3の議題については数値実験により構築した制御方策の有効性を検証できたが,その有効性はネットワーク構造に依存しうる.そのため,多起点多終点への理論拡張を達成した後,系統的な数値実験を通して,提案制御の有効性の検証に取り組む予定である.
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