2018 Fiscal Year Annual Research Report
歴史としての戦後民主主義と「行動する知識人」――鶴見俊輔・日高六郎を対象に
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18J12625
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
宮下 祥子 立命館大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 戦後啓蒙 / 社会心理学 / 知識人 / 教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度はおもに日高六郎の思想に関する研究を進展させた。その成果の一部は、論文「日高六郎研究序説――「社会心理学」に根ざす戦後啓蒙の思想――」(『社会科学』第48巻第4号、2019年2月)としてまとめ、公表した。その要旨は以下のとおりである。 戦後史・戦後思想史研究において頻繁に引用されながら、固有の知識人としては従来ほとんど論じられてこなかった日高六郎の学問・思想・行動を明らかにする必要がある。日高はマルクス主義の有効性を認めつつ、マルクス主義者の党派性と下部構造決定論の発想を一貫して批判した。日高が追求したのは異質なものの衝突による思想創造であり、サークル運動がパーソナル・コミュニケーションの場を創出することによって、日本の社会意識を変革する基盤となることに期待をかけた。フランクフルト学派やアメリカ社会心理学の発想と方法が日高の戦後啓蒙を支えたが、同時に、心理学の学知が規律権力となることの危険を1950年代から指摘していた。また日高の社会心理学のパースペクティブに根ざした学校教育へのコミットは、彼の思想の核に関わる重要性を帯びていた。歴史性を重視し、社会構造のなかの人間を思想史的にまなざす日高の主体観は、自立した強い主体を希求した戦後思想のなかにあって、独自の位置を占めている。 本論文執筆後は、日高が展開した「社会心理学」の内容をさらに具体的に追及するとともに、戦後日本における「社会心理学」の展開と変容について知見を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日高六郎に関する論文をまとめ、そのなかで今後の研究の道筋と論点を示すことができた。どのような視点と切り口で論じていくかが研究遂行上根本的な重要性をもつが、それを大まかにではあるが提示できたことは大きな意義をもつことであった。一方で、そこで提示した論点に沿って具体的な実証研究を進めていくことが今後最大の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に公表した論文のなかで示した論点と切り口に沿って、具体的な実証研究を進めていくことが今後の主たる課題である。そのひとつは、日高が展開した「社会心理学」の内容を明らかにすることである。方法としては、1950-60年代に日高が執筆あるいは編著者を担当した論文や叢書・講座本の類を網羅的に読み込み、日高が当時の日本社会をどのように捉えどう変革しようとしていたのかを、彼の「学問」に内在しながら明らかにしていく。 もうひとつは、日高の学校教育へのコミットについて明らかにすることである。日高が執筆したテクストはおおむね検討したが、それが戦後の学校教育をめぐる知識人の取り組みや言説のなかにどう位置づくのか、さらにそれが東アジア冷戦構造のなかでどのような役割を果たしたかを検討することが必要である。それらを論じる史料や先行研究を読み解いていく。
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Research Products
(5 results)