2018 Fiscal Year Annual Research Report
水圏環境中で新規マクロライド耐性遺伝子を運ぶ可動性遺伝因子の解析
Project/Area Number |
18J12724
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
杉本 侑大 愛媛大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 薬剤耐性遺伝子 / 可動性遺伝因子 / 水圏環境 / 未培養細菌 / マクロライド耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境中での薬剤耐性菌拡散の把握のためには病院外の環境を含めた調査が必要である。しかし自然環境中の細菌は9割以上が培養できない菌(未培養菌)である。本研究は環境中での薬剤耐性菌の動態研究を行うものである。最近、新規のマクロライド系抗生物質への耐性遺伝子であるmef(C)とmph(G)が海面養殖場海水の細菌から発見された。両遺伝子は臨床では検出例がなく、今後の耐性遺伝子動態研究に有用である。本研究では、環境中で 1) mef(C)-mph(G)を運ぶ可動性因子の特定 、2) 保有菌の特定、3)拡散の実態解明を行う。 平成30年度には、mef(C)-mph(G)の環境中での分布とその起源を明らかとするため、台湾の養豚場から河口までの排水および河川水中のmef(C)-mph(G)と可動性遺伝因子を定量的に検出した。この際、環境水中の全DNAを抽出した系(全細菌群集)と、環境水を寒天培地上で培養して得られたコロニーからDNAを抽出した系(コロニー形成菌群集)の両方を行なった。その結果、mef(C)-mph(G)は養豚場の上流域では検出されなかったが、養豚場以下の下流から広く検出されることがわかった。河口地点においてはコロニーは得られなかったが、全細菌群集においては河川と同レベルでmef(C)-mph(G)が検出された。これらのことは、1) 養豚場がmef(C)-mph(G)の発生源の一つであること、2) 陸から流れ出たmef(C)-mph(G)保有菌は、海に到達するとコロニー形成能を失う、海洋細菌にmef(C)-mph(G)を海洋細菌に水平伝播させる、ということが示唆された。今回検出した可動性因子とmef(C)-mph(G)の定量値の間に有意な相関は見られなかったため、mef(C)-mph(G)は特定の因子に偏在するか、もしくは未知の因子に運ばれている可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
環境中で多数を占める未培養細菌を対象として、新規のマクロライド耐性遺伝子を定量的に検出し、その起源と動態を調べるという新規性に富む研究を遂行した。この耐性遺伝子は養豚場を一つの起源として海洋に至るまで存在していることを明らかにした。この結果は従来の培養法を用いた手法では見逃されるものであり、環境での調査における未培養菌を対象とすることの重要性を示した。耐性遺伝子を運ぶ可動性遺伝因子の特定には至らなかったが、これまで単離株からしか発見例がないクロモソーム性伝達因子ICEが、未培養菌に保有されるという新たな発見を得ることができた。本研究で得られた結果は、陸を由来とする耐性遺伝子が環境中に放出された後の運命を示唆するものであり、環境中での耐性遺伝子の動態解明の手がかりとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
環境中における耐性遺伝子保有菌を特定するため、新しいfluorescent in situ hybridization (FISH)法を用いて耐性遺伝子を検出する。これまでの FISHでは少数コピーの遺伝子を検出できなかったが、本研究では、蛍光シグナル増幅反応 を二度行うことで検出感度を向上させる。本研究では、本法を用いて、培養を介さずに全細菌群集中の可動性因子の定量と、保有種の同時解明を目指す。これが成功すれば、メタゲノミクスやリアルタイムPCRでは得られなかった、耐性遺伝子の分布と動態に関してさらなる成果が期待できる。
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Research Products
(2 results)