2018 Fiscal Year Annual Research Report
A genealogical study of racist violence against Korean minority in Japan
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18J12796
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
梁 英聖 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | レイシズム / 在日朝鮮人 / フーコー / 暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
欧米先進諸国の多くは60~70年代に人種差別を禁止する法制度を整備してきたが日本にはこれらに匹敵する差別禁止法制が存在しない。2016年に本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律成立後も、街頭やインターネットなどで頻発するヘイトスピーチ抑制に成功していないのは、基本的差別禁止法の欠如にあるとの批判がある。なぜ欧米で差別禁止法制整備が進んだ60~70年代に日本ではそうでなかったのか、また今日のヘイトスピーチと過去の戦後日本のレイシズム暴力を比較し共通点と差異点を分析することが急務であろう。本研究の目的は60~70年代に頻発した朝高生襲撃事件はじめレイシズム暴力事件に関して当時生み出された諸言説を系譜学的に研究することで次の諸点を明らかにすることにある。①事件を語る言説の具体的ありよう。②レイシズム暴力としての性格がどのように語られてきたか。③それら言説がどのようにしてレイシズムとしての事件の性格を覆い隠すに至ったのか。 【2018年度研究実施状況】 1.『朝鮮時報』の記事をくまなく調べレイシズム暴力事件がどれほど報道されているかを調査し、1962年~65年までの詳細なリストを作成、関連資料を数十点収集することに成功した。結果、従来研究では知られていなかった新しい朝鮮学校襲撃事件を複数発掘することに成功した。当時事件は普遍的人権からだけでなく、日本植民地支配と在日朝鮮人弾圧との関連や朝鮮民主主義人民共和国の正当性との関連から語られることが多いことを明らかにできた。 2.分析方法を練り上げるため90年代から2000年代初の英語圏レイシズム暴力研究を調査しレイシズム暴力研究とCas Mudde(2018)らのポピュリズム研究の関連を明らかにした。 3.同様にフーコーの『狂気の誕生』と『社会は防衛しなければならない』を精読しレイシズム言説分析の参照軸を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展していると評価できる。 現代史の中で埋もれていた朝高生襲撃事件を当時の在日朝鮮人向けのエスニック・メディアのなかから新たに見つけ出すことに成功した。戦後日本社会で在日朝鮮人への差別については日本の公式の統計もないばかりかマスコミ報道や研究も乏しいなか、本研究はほとんど光が当たらなかった日韓条約制定前後の朝高生襲撃事件の実態を明らかにするものだ。これは日本のみならず韓国の在外同胞研究など様々な分野の社会科学に貴重な学問的貢献をおこなうものといえるだろう。 また英語圏レイシズム暴力研究を参照することで、日本のレイシズム暴力事件の言説を日本という一国的観点からではなく、同時代の日韓・日朝関係にいかに同事件が翻弄されたかを分析する有益な視角を得ることができた。 さらに、英語圏のポピュリズム研究の動向を追うことで、今日のポピュリズム研究とレイシズム暴力研究との関連という視角から、日本と欧州とのレイシズム暴力に関する語りの共通点と差異をみるという方法の有益性を今年度確認することができた。 もっとも文献調査は現時点では『朝鮮時報』など在日朝鮮人が主体であるものに留まっており他の媒体も研究をすることが望ましいとはいえるものの、資料的制約があることにくわえ、上記成果を踏まえれば、おおむね期待通り研究進展したといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
1、研究論文構想作成を行う。論文執筆のためフーコー関連の文献や社会学関連の文献を精査し系譜学的手法による朝高生襲撃事件言説の分析を行う。 2、引き続き、関連文献・資料調査を行う。また上記資料②在日朝鮮人の人権を守る会関連資料については、諸事情により難航していたが、以下のようなルートを通じて調査・収集することを模索している。第一に、昨年度までに構築した在日関連団体・個人のネットワークを活用し、関連資料調査協力の呼びかけを行う。第二に、当該資料を所有していると考えられる高齢世代の在日朝鮮人がよく読むエスニックメディアに知人を通じて資料調査協力の呼びかけを行う。第三に、その際、2018年度資料調査の結果入手した『朝鮮時報』の1962~65年複写資料の分析の結果判明した具体的な事件発生地域と関係者名を重要な手掛かりとすることで、大阪等各地方の朝鮮総連関係者を訪ね有効な形で資料収集・発掘を行う。第四に、文献研究の結果、在日朝鮮人の人権を守る会関連の希少資料が韓国ソウル大学中央図書館の小沢有作文庫に保管されている可能性が判明したため、機を見て訪問し資料調査を行うことを計画している。これに加え、発掘困難な資料極右団体・個人の手記をできる限り多く収集・発掘する必要がある。国士舘大学館長・故柴田徳次郎著作のほかは、ほぼ未公開のため、2018年度調査で得た協力者を通じて新たに協力者を探し出し資料収集・発掘を行う。
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[Book] 憎悪とフェイク2018
Author(s)
永田浩三,望月衣塑子,斉加尚代,西岡研介,北野隆一,立岩陽一郎,古田大輔,福嶋聡,香山リカ,梁英聖,辻大介,川端幹人,臺宏士
Total Pages
256
Publisher
大月書店
ISBN
978-4272330942