2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J13298
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山根 崚 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 氷 / 高圧 / 誘電性 / 無秩序 / 秩序化 |
Outline of Annual Research Achievements |
氷高圧相である氷VI相、氷VII相の無秩序‐秩序状態に関する未解決の諸問題を氷の誘電性に着目して研究を行った。氷VI相の秩序化は、その幾何学的フラストレーションなど氷Ih相(常圧氷)と類似点が多く物質科学的に氷の秩序化の一般的な理解に重要である。氷VII相はその安定圧力領域の広さから物質科学のみならず地球惑星科学など広い分野で研究されており、その無秩序状態とそれを支配する原子、分子ダイナミクスの理解は、圧縮率などのバルクの高圧氷の物性を知るうえでも重要である。氷の無秩序状態のダイナミクスは、一般的に水分子の回転とプロトンの酸素原子間の飛び移りによって支配されている。それぞれ異なるタイムスケールでの顕著な誘電応答を示し、低温で水素原子位置に関する秩序化が進行すると水分子の電気双極子同士の相互作用が強くなり、それらの誘電応答が劇的に弱まる。また誘電性は電気的な性質であり光学測定に比べ、氷でみられる部分的な秩序化の進行にも敏感である。このように氷の高圧誘電物性は、その有用性が認識されているにも関わらず高圧という実験環境から世界的にも現在全く研究されていない。そこで、氷の高圧誘電物性研究をその測定技術の開発も含めて行い、当該年度で基本的な技術開発は完了した。氷だけでなく、高圧下での誘電物性の測定技術基盤はいまだ確立されておらず、開発した高圧誘電物性測定技術は、それ自身、氷以外にも豊かな誘電性を持つ分子性固体や磁性誘起の誘電性をもつマルチフェロイクスなどへの展開が期待される。 また、開発した測定技術を用いて氷VI相の低温高圧下での秩序化の実証とその無秩序、秩序相の相境界の決定および氷VII相の10 GPa付近において報告されている種々の測定異常の問題(以下10 GPaアノマリー問題と呼ぶ)を誘電性に着目して検証を行い、無秩序状態のダイナミクスの転移に起因するという原因の究明に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度で、目的の圧力に応じた誘電率・電気分極測定用の高圧セルの技術開発はすべて完了しており、これは当初の計画を上回るペースである。また、実験的には氷VI相において当初計画していた相境界の決定を初年度でほとんど完了しており、相境界の温度‐圧力勾配から氷VI相の秩序相にはこれまでに知られていた氷XV相以外にもう一つ存在することを見出した。この新しい氷高圧相の発見は当初予期していなかったものであり、その結晶構造が中性子回折で決定できれば19個目の新しい氷の多形の発見という大きな進展が期待される。氷VII相の10 GPaアノマリー問題についても基本的な高圧誘電測定実験はすべて完了しており、誘電性の観点から氷VII相の無秩序状態を支配するダイナミクスが10 GPa付近で転移しているという原因の究明に至った。また、10 GPaアノマリー問題の有力な解釈の一つであった、氷VII相の部分的秩序化において理論研究で示唆されている実験的に未発見な強誘電的秩序構造の共存の可能性とその氷VII相中での電場誘起に関しても中性子回折を用いて検証を行った。高電場、高圧下での中性子回折測定はこれまでにない多重極限環境下での実験であり高電場印加用の高圧セルや実験システムの立ち上げなども含めた研究である。オーストラリアの中性子実験施設(ANSTO)での高電場、高圧下中性子実験システムの立ち上げは完了し、その測定から予想される強誘電的秩序配置は観測されなかったが、測定環境とその技術の新奇性を評価され学術論文にその成果を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
新しく発見した氷VI相の秩序相について、J-PARCでの高圧中性子回折測定を行い水素原子位置まで含めた結晶構造の決定を行う。理論計算の先行研究で、氷VI相には実験的に未発見の安定な秩序構造が示唆されている。これは従来知られている氷VI相の秩序相である氷XV相のような対称心を持つ結晶構造ではなく、対称心を持たない分極した構造である。そこで、今後は焦電流測定や電気分極測定を行い、物性測定の観点からも新しい秩序相の結晶構造を主にその分極性に着目して研究を進め、焦電体、強誘電体などの新しい秩序相の物性を明らかにしていく。 また、氷VII相の10 GPaアノマリー問題に関しては水素(H)を同位体である重水素(D)で置換した系で同様の測定を行い、10 GPaアノマリーの同位体効果について調べる予定である。
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Research Products
(6 results)