2018 Fiscal Year Annual Research Report
The Place of Emotions in Politics: An Approach from the Normative Theory of Democracy
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18J13372
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小林 卓人 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 政治哲学 / 規範的政治理論 / デモクラシー / エピストクラシー / 政治的平等 / 関係的平等 / 価値論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的・実施計画:当該年度の研究目的は「政治過程の外部にて表される市民の感情を、政治過程において公正に代表すること」の意味の解明・擁護であった。具体的には、(1)代表・公正概念の分析、(2)「感情の代表」という実践に対する公正性の規範的要請の擁護、の二点を研究課題としていた。 研究成果:(1)の課題に取り組む過程で、民主主義理論における公正や政治的平等といった規範的概念にまつわる問題の精査へと研究の焦点が移り、その成果が当該年度の主要な業績となった。以下、この研究成果について詳述する。 民主主義理論における公正や平等の概念は、民主的手続きを正当化する議論の中で、当該手続きの非道具的価値として言及される。しかし近年では、手続きが実現すべき価値とは何か、という主題につき、非道具主義と道具主義の間で論争が生じている。また、民主主義に代替する制度構想案として、「各市民の政治的能力の高低に応じて、投票権など決定に影響を与える機会を不平等に与える」とする「知者の支配」が提案されており、その支持者の多くは道具主義(帰結を改善する傾向性のみから手続きを評価・比較する立場)を支持している。 この研究動向に鑑み、本研究で公正や平等の規範性を直ちに所与とすることはできないと考え、まずは上述の論争に取り組むため、前々段落で述べたように研究内容を変更した。変更後の課題は、「公正や平等の価値が、手続きの正当化において依拠されるべき価値に含まれることを明らかにする」ことである。その研究成果は、次の査読論文にまとめた。小林卓人「政治的決定手続きの価値--非道具主義・道具主義・両立主義の再構成と吟味」『政治思想研究』第19号, 238-269頁, 2019年5月. 同論文では、手続きの非道具的・道具的価値の双方を考慮に入れることを要請する両立主義を、社会関係的平等主義という立場から擁護した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績概要欄で述べたように、当該年度の具体的な研究課題は、(1)代表・公正概念の分析、(2)「感情の代表」という実践に対する公正性の規範的要請の擁護、の二つであった。研究実績概要欄にて述べた現在の研究成果を考慮に入れつつ、それぞれについての研究進捗状況・自己評価を以下にまとめる。 (1)について。研究実績概要欄で述べた研究成果については、当初予期していなかった理論的問題に精査を加えることができたため、この点に限っては当初の計画以上の進展が得られたと言える。具体的には、政治過程における感情の代表およびその実践に対する公正・平等主義的な制約を擁護するという当初の研究課題に関連して、公正・平等の規範性を裏付けるための理論的考察を加えることができた点で、当該年度の研究成果は本研究全体の規範理論としての体系性を高めるものである。 ただしその反面、代表概念の分析は当初予定していたペースで進めることができていない。現状としては、平成30年度交付の研究費を用い、代表制理論に含まれる重要文献をほぼ収集し終え、既存の理論的立場を整理する作業が進んでいる。特に近年では、構築主義的代表理論と総称されうる理論潮流が現れており、英米圏では同理論に関する論文集も出版されている。これらの文献をもとに、研究動向の整理を進めている段階である。 (2)について。この課題の遂行も当初の予定より遅れているが、研究計画にて言及した「公正な代表」という規範的要請は、平成30年度の研究でも着目した社会関係的平等理論に基づいて擁護しうると考えられる。現在のところはこのアイデアを吟味・検討している段階である。 以上、本研究の進捗状況の概要を述べた。当初設定した研究課題を全て遂行するには至っていないものの、本研究全体に影響しうる理論的問題に取り組むことができた点で、研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、次の二つの課題に取り組む。(1)代表概念の分析および「感情の代表」という実践、およびその実践に対して課せられる「平等主義的な代表」の要請の擁護。(2)手続き的平等の規範的要請が安定的に遵守されるための条件の解明。以下、これら二点について研究の推進方策を述べる。 (1)について。この課題は、第一年度に取り組みきれなかった研究課題を引き継いだものである。代表概念の分析に関しては、代表制理論における構築主義的アプローチに着目する。特にSaward (2010)による「主張としての代表」という分析がある。本研究ではこの点に則りつつ、「感情の代表」という実践をも構築主義的に分析する余地を検討する。 また、研究進捗状況欄で述べたように、感情の代表における公正・平等主義の意味の解明および擁護を社会関係的平等理論に則って展開しうると考えられる。同理論は、市民間の従属関係を縮減・除去することを根本的要請としており、代表実践にまつわる諸問題は同理論に依拠する形で取り組むことができる。代表概念の分析と並行しつつ、このアイデアを吟味・検討し、Representationなど査読誌への投稿を目標として研究を進める。 (2)について。規範的要請の遵守の安定化条件として、実利主義と内在主義を批判的に検討した上で、市民間の感情的紐帯が必要条件の一つである、という主張を擁護する。参照点として、Rawls (1999)が展開する「相互性としての道徳心理」に基づく道徳発達過程の記述や、近年の社会心理学にてTyler (2010)が展開した協調行動の条件としての互酬性などが挙げられる。研究成果は、規範的政治理論の論文を幅広く掲載するCritical Review of International Social and Political Philosophyなどの査読誌に投稿することを目標とする。
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