2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J13646
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 文哉 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 悪性中皮腫 / がん幹細胞 / がん微小環境 / 鉄 / アスベスト / 炎症性微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績の概要 石綿(アスベスト)による発がんは炎症を起点とするが、その発がん初期における腫瘍発生機構は不明である。本研究は、その発がん機構解明に重要な段階であるがん幹細胞形成およびそのニッチを検出し、微小環境がどのようにがん幹細胞発生・維持に寄与するのかを明らかにすることを目的とする。 H30年度は石綿曝露により変化した炎症環境が中皮幹細胞および前駆細胞に与える腫瘍発生に重要な因子の特定を目指し研究を行った。得られた結果(①-⑤)を以下に示す。①中皮幹細胞および前駆細胞においてβ-カテニン発現が亢進している可能性が示唆された。②β-カテニン発現中皮細胞に対し、酸化傷害を与えるとβ-カテニン高発現細胞選択的にゲノム傷害が優位に来されることを明らかにした。③石綿曝露後4週の炎症性微小環境において、マクロファージはiNOS(-), CD163(+), MHC(+)とM2マクロファージであることが明らかとなった。④石綿曝露後4週の炎症性微小環境において、繊維芽細胞はα-SMA(+)であった。⑤ ③④からがん幹細胞維持に重要な微小環境は腫瘍発生前(がん幹細胞発生前)から形成されており、この炎症性微小環境は他の部位と比較し、腫瘍発生に有利な「ホットスポット」ではないかと考えられる。(論文投稿準備中) 以上の結果は、中皮腫幹細胞は中皮の由来である中胚葉の発生に密接に関係するWnt/β-カテニン経路の関与を強く示唆するものである(結果①②)。さらに微小環境における細胞集団が比較的発がんの初期過程で存在していること(③-⑤)はがん幹細胞発生・維持に重要なのではないかと考えており、微小環境の成熟についても着目する必要があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、本研究の初年度として、アスベストによる発がん性炎症の起源をより深く理解するため、細胞レベルの解析を中心に行った。アスベストは炎症性微小環境において鉄の代謝異常を介し、中皮細胞にDNA2重鎖切断を来していることが判明した。また、中皮傷害と再生に際し、中皮幹細胞あるいはその前駆細胞が起源と考えらえる一過性増殖細胞が炎症局所に存在しており、上記細胞集団優位にゲノム傷害が起きているというデータが得られている。この細胞集団の網羅的遺伝子発現解析により中皮細胞はWnt/B-catenin経路を一時的に活性化しており、中皮腫幹細胞あるいは前駆細胞の発生に関与している因子であろうことが結論できたため、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、p53のヘテロKOマウスおよびホモコンディショナルKOマウスを用いた発がん実験計画を継続して行い、悪性中皮腫幹細胞の発生過程を明らかにすることを目指し研究を行う。候補因子に対するCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集にて中皮腫幹細胞特異的に発現する蛋白質を同定および標識し、培養細胞レベルでの解析を行う。同時に、上記ゲノム編集を動物個体に応用し、候補因子がどのようなメカニズムで中皮腫幹細胞を形成維持するかについての詳細に迫る予定である。
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