2018 Fiscal Year Annual Research Report
戦後の在日コリアンの美術運動―1945年から60年代を中心に―
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18J13831
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白 凛 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 美術史 / 在日コリアン / 作品 / 一次史料 / 聞き取り調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用者は、これまでまとまっていなかった在日コリアンの美術家の活動を、初めて網羅的に把握し、これの体系的研究を行なってきた。先行研究の成果を踏まえて、特に在日コリアンの美術作品と、それが創造された歴史的背景との関連性を分析し、その意義を解明することに重点を置いている。採用一年目の目的及び計画、そして実績の概要は以下の通りである。 目的:美術作品そのものの分析と同時に、これらが制作され受け入れられた社会との関連性を解明する。対象年代は1945年から1960年代である。 計画:博士論文の仮題を決め、本格的に書きだすにあたり、(A)日本アンデパンダン展など日本の美術グループと在日コリアンの美術家の活動との関連性を解明する。(B)成立背景の異なる美術グループが共同で開催した展覧会の意義を明らかにする。 実績の概要:博士論文の仮題を決め、第一回公開審査を実施し、主査および副査から貴重なアドバイスを得、無事通過した(実施は2018年11月)。(A)1953年結成の在日朝鮮美術会の機関誌『朝鮮美術』に解題をつけて公開した(第1号及び第3号)。この解題をつけるにあたって、上記に計画した通り、日本アンデパンダン展との関連性を明示した。日本アンデパンダン展を主催していた日本美術会の機関誌『美術運動』の分析を参考にした。今回の解題を通して、会の結成をとりまく具体的な状況や、会員らの関心事などを解明し、初めて公開した。(B)在日朝鮮美術会と白葉同人会美術部、在日韓国芸術協会が共同で開催した「連立展」(1961年開催)を分析した。朝鮮半島の分断が在日コリアンの生活や創作にも影響を与えていた時期に、在日コリアンがどのような美術を目指していたのかを解明した。この分析にあたっては同人誌『白葉』の分析を参照した。(A)、(B)を通して、1950年代前半の在日コリアンの美術家の活動を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①博士論文執筆開始、②美術作品の実見、③投稿論文の執筆、④聞き取り調査の実施、⑤海外現地視察、⑥研究者らとのミーティングを行なった。具体的な進捗状況は以下の通りである。 ①博士論文執筆開始:順調に書き始め、第一回公開審査を無事通過した。全九章の予定であり、完成度は七割程度である。②美術作品の実見:研究課題の実施について必要な展覧会に足を運んだ。美術作品の実見と、最新の研究成果を把握した。美術館及び博物館では、美術作品の実見と共に展示方法の視察も行なった。③投稿論文の執筆:投稿論文及び研究ノートが採録決定となった(査読有)。また、現在は一本の投稿論文が査読中である。④聞き取り調査の実施:これまで築き上げた信頼関係をもとに、聞き取り調査を継続的に実施した。6人の聞き取りが可能となった。聞き取り調査の過程で、写真資料や作品の撮影許可をいただくなど、一次史料を提供していただいた。戦後日本における在日コリアンの美術家の活動、特に児童美術教育との関連性について聞き取ることができた点がこれまでになかった成果である。⑤海外現地視察:中国と韓国で美術作品の実見と美術の教育現場を視察した。中国では延辺大学で教授と面会し、当該地域のコリアンディアスポラアートについて直接話を聞くことができた。韓国では展覧会で作品を実見した他、研究者及びアートディレクターと面会した。研究課題の設定時代である1950年代の美術研究について、関連する美術作品の分析と研究方法についてのアドバイスを受けた。⑥研究者らとのミーティング:国内外の研究者らとミーティングを持ち、共同研究の可能性について討議した。特に本研究課題と東アジア美術研究の最先端の動向との関連性について話し合いを持つことができた。このように振り返ると、採用第一年目を計画以上に達成したとみなしてもよいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
美術作品の発掘、一次史料の発掘、聞き取り調査の実施は、継続的に行なう。そのうえで、以下の三点の方策をたてる。 1. 研究会及び学会発表:①「朝鮮学校研究会」(2019年5月11日、同志社大学)にて、「在日コリアンの美術教育の歴史」を報告予する。ここでは日本の児童美術研究者らと、在日コリアンの教育者らの接点を明らかにする。戦後日本において版画が教育に取り入れられていた経緯を解明し、児童教育に取り入れられた版画教育と生活綴り方が、在日コリアンの教育に応用され、児童たちに自らのアイデンティティを考えさせる方法として採用された経緯の詳細を明らかにし、その意義を発表する。②「国際高麗学会」(2019年6月8日、東京大学)にて、「1950年代の在日コリアンの美術家の活動について」を発表する。これまでの研究成果を異分野の研究者らを対象に発表する。2. 欧州の 美術館・博物館調査を行なう(ベルリンの予定)。また自費での韓国現地調査を前年に引き続き実施し、これまでの研究において不足分があればそれを補う。3. 博士論文提出:これまでの研究成果を博士論文にまとめて提出する。第一回公開審査は2018年11月に終了している。第二回公開審査を2019年6月21日に開催する。同年11月に提出し、2020年1月に最終審査が予定されている。 次に博士論文提出後の研究推進方策は以下の二点である。 1. 博士論文の書籍化:博士論文の審査後、速やかに書籍化に向けた作業を行なう。書籍化については、現在までに出版社と数回の討議を経て、内容を詰めてきた。また、その過程で出版助成が内定している(10〔図書〕参照)。2020年3月末日に出版する。2. 美術専門書の翻訳:美術専門書の翻訳及び出版が決まっている。第二次世界大戦後の東アジア美術研究の発展に貢献すべく、迅速に進める。
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