2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J13854
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
相馬 史幸 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 浸透圧ストレス / 乾燥ストレス / SnRK2 / 初期応答 / mRNA分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化等の影響により、作物の成育環境が劣悪化している。安定的な農業生産を行うためにはストレス耐性作物の作出が急務となっている。環境ストレスの中でも干ばつや塩害などの浸透圧ストレスは作物の成育や収量に大きな悪影響を及ぼす。そこで本研究では浸透圧ストレス耐性作物の作出のために、モデル植物シロイヌナズナにおける浸透圧ストレスの初期応答機構の解明を試みた。これまでに浸透圧ストレスの初期段階において、サブクラス I SnRK2-VCS経路による不要なmRNAの分解経路が植物の成長維持に貢献していることを示した。しかし、浸透圧ストレスに応答してどの様にサブクラス I SnRK2が活性化するかは明らかになっていない。そこで次にサブクラス I SnRK2の活性化因子の同定を目指した。浸透圧ストレスの初期段階においてサブクラス I SnRK2と相互作用する因子を同定するため、共免疫沈降および質量分析による解析を行った。その結果、サブクラス I SnRK2の活性化に関与していると考えられるタンパク質キナーゼOSRK(初年度はAKSキナーゼとしていた)を同定した。本年度は、サブクラス I SnRK2とOSRKが植物体内で相互作用していることを確認した。またOSRKが直接的にサブクラス I SnRK2をリン酸化することで活性化していることを示した。また、浸透圧ストレス条件下においてサブクラス I SnRK2とOSRKの機能欠損変異体は類似の成育阻害を示した。さらにトランスクリプトーム解析によって、サブクラス I SnRK2とOSRKの機能欠損変異体において発現が変動している遺伝子の多くが一致していることを示した。以上の結果から浸透圧ストレス時に、OSRKはサブクラス I SnRK2の活性化を通じて転写制御および成長制御を行っていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はシロイヌナズナにおけるサブクラス I SnRK2の上流活性化因子の同定について中心的に行った。サブクラス I SnRK2の活性化に関わる因子の網羅的な解析によって得られた多数の因子の中から、その最有力候補として3つのOSRK1/2/3タンパク質キナーゼを選抜した。本年度は当初の計画通り、OSRKタンパク質の細胞内局在を、GFPレポーターを用いた解析から明らかにした。またOSRK遺伝子の組織特異的解析を、GUSレポーターを用いて明らかにした。また共免疫沈降法やルシフェラーゼ再構成法などの複数の実験手法により植物体内においてサブクラス I SnRK2とOSRKとの物理的な相互作用を実証した。次に試験管内および植物生体内において、OSRKがサブクラス I SnRK2をリン酸化することで活性化していることを示した。それに加えて、試験管内においてOSRKがリン酸化するサブクラス I SnRK2のアミノ酸残基を特定できた。また、OSRKの機能欠損変異体を用いて表現型解析を行うことでOSRKが浸透圧ストレスの初期応答機構において、植物の成長維持に重要な役割を果たしていることが示された。トランスクリプトーム解析からもOSRKがサブクラス I SnRK2の上流活性化因子であることを示唆した。以上の結果より、OSRKはサブクラス I SnRK2-VCS経路を活性化することで不要なmRNAの分解を促進し、植物の成長制御に貢献していると考えられた。以上のように計画していたOSRKの解析に加え、OSRKがサブクラス I SnRK2の上流因子であることをより確実に証明したことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は生体内においてOSRKがサブクラス I SnRK2のどのアミノ酸残基をリン酸化するかを質量分析等で確認する。またサブクラス I SnRK2のリン酸化部位をアラニンやアスパラギン酸に置換することで、擬似リン酸化あるいは非リン酸化型サブクラス I SnRK2を作出し、活性化に及ぼす影響を解析する。またOSRKとサブクラス I SnRK2の遺伝学的相互作用を確認するため、OSRKとサブクラス I SnRK2の両方が欠損した変異体を作出し、各変異体と比較して表現型が加算的にならないかを確認する。これらの成果をまとめ学術雑誌に投稿する予定である。また次なる課題としてOSRKの活性化機構についての解明を行う。OSRKは浸透圧ストレスに応答してリン酸化されるが、そのリン酸化部位を同定する。OSRKの活性化にリン酸化が必要であるを解析するとともに、リン酸化型OSRKを認識する抗体を作製する。また、そのOSRKのリン酸化に関わるキナーゼ等を同定することで浸透圧ストレス感知に関わるタンパク質因子を同定する。そのために、浸透圧センサーとして考えられている因子の機能欠損変異体におけるサブクラス I SnRK2の活性化の評価を行う。またOSRKと相互作用する因子を同定することでOSRKの活性制御因子の同定を試みる。以上の研究を通して、OSRKの活性化機構が明らかにされれば、植物における浸透圧ストレスの感知メカニズムが明らかにされる期待される。
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Research Products
(3 results)