2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトTNRC6AとCNOT1による核内転写制御機構の解明と細胞癌化との関連
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18J13860
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須澤 壮崇 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | microRNA / RNAサイレンシング / GW182 / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
microRNA(miRNA)は、20塩基程度の短いRNAであり、細胞質において相補的な塩基配列をもつ mRNA の分解や翻訳抑制を引き起こす。近年、miRNA は核内にも存在することが明らかとなったが、その機能は未解明な点が多い。miRNAは細胞質において、Argonaute(AGO)タンパク質に取り込まれ、さらに、 GW182 ファミリータンパク質を介してCCR4-NOT脱アデニル化複合体と相互作用する。当研究室では、ヒトGW182ファミリータンパク質のTrinucleotide repeat-containing gene 6A (TNRC6A)が、核-細胞質間シャトリングタンパク質であり、miRNA-AGO 複合体を核内輸送することを明らかにした。本研究ではこれまで、質量分析法を用いて核内および細胞質TNRC6Aの相互作用因子を解析し、TNRC6Aが核内でCCR4-NOT複合体の一部と相互作用することを明らかにした。これにより、miRNAは核内でもCCR4-NOT複合体と協働した遺伝子発現制御を行う可能性が示唆された。 本年度は、まず核内TNRC6A-CCR4-NOT複合体の標的遺伝子の解析を試みた。CCR4-NOT複合体は核内において、c-Myc等のプロモーター領域に結合し転写調節に働くことが報告されているが、miRNAやTNRC6Aの関与は不明である。そこで、TNRC6Aをノックダウンした際の標的遺伝子発現に与える影響を定量RCPで解析することで、既知の転写調節機構への関与を検証した。 さらに、質量分析によりTNRC6Aのリン酸化残基が明らかとなった。細胞質と核でリン酸化パターンが異なることから、リン酸化がTNRC6Aの細胞質と核内における相互作用因子および機能を制御する可能性が考えられた。そこでAGOとの相互作用に与える影響に着目し、上記の仮説について検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・核内TNRC6A-CCR4-NOT複合体の標的遺伝子の解析 定量PCRの結果、TNRC6Aノックダウンの有無によるCCR4-NOT複合体の核内標的遺伝子 (c-Myc, TFF等)の発現量に差異は見られなかった。現在、核内TNRC6A-CCR4-NOT複合体により制御される遺伝子の同定を新たに試みている。
・TNRC6Aのリン酸化残基の同定とその機能解析 AGOとの相互作用領域(GW-I、GW-II、GW-IIIドメイン)に着目し、質量分析で見出された各ドメイン内のリン酸化残基をそれぞれアラニン置換した変異体を作成した。細胞内おけるリン酸化状態を、SDS-PAGEを用いてタンパク質の泳動度の差異で確認した結果、GW-I、GW-IIドメインにそれぞれ1箇所、GW-IIIに2箇所のリン酸化残基を同定した。リン酸化がAGOとの相互作用に与える影響を免疫沈降実験により検証した結果、GW-IIドメインにおいて、リン酸化残基をアラニンに置換した変異体はAGOとの相互作用が減弱し、擬似リン酸化変異としてアスパラギン酸置換することで相互作用が回復した。さらに、RNAサイレンシング活性に与える影響についてルシフェラーゼレポーターアッセイにより検証した結果、GW-IIドメインのアラニン変異体はRNAサイレンシング活性が減弱し、アスパラギン酸変異により活性が回復した。また、GW-II断片を発現させた細胞を細胞質と核に分画し、SDS-PAGEで泳動度を調べた結果、GW-IIは主に細胞質側でリン酸化を受けていることが分かった。以上の結果より、GW-IIのリン酸化は、細胞質においてAGOとの相互作用およびRNAサイレンシングの増強に働くことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
・核内TNRC6A-CCR4-NOT複合体の標的遺伝子の解析 核内TNRC6Aにより制御される遺伝子を同定するため、CRISPRシステムによるTNRC6ノックアウト細胞株の樹立、およびとそれらを用いたトランスクリプトーム解析の準備を進めている。ヒトGW182ファミリータンパク質は、TNRC6A、TNRC6B、TNRC6Cの3種のパラログが存在しており、これらは機能が重複していると考えられている。そのため、まずはTNRC6A、TNRC6B、TNRC6Cそれぞれのノックアウト細胞株を樹立しトランスクリプトームを比較することで、パラログ間における標的遺伝子の差異を明らかにする。さらに、核特異的に局在する変異型TNRC6Aまたは細胞質局在型のTNRC6A変異体をTNRC6Aノックアウト細胞に発現させることで、核内機能または細胞質機能のみを回復させる。これらのトランスクリプトームへの影響を比較することで、核内TNRC6Aによって制御される遺伝子の解析を行う。さらに、核内特異的な遺伝子については、CCR4-NOT複合体構成因子をノックダウンした際の遺伝子発現への影響等をしらべることで、CCR4-NOT複合体の関与を検証する。
・TNRC6Aのリン酸化残基の同定とその機能解析 細胞質および核におけるTNRC6Aのリン酸化パターンの変化、およびそれに伴うRNAサイレンシング活性の変化が、どのような遺伝子発現の制御に関わっているのかを検討していく。
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