2018 Fiscal Year Annual Research Report
覆屋内環境下における磨崖仏の塩類風化抑制手法に関する研究
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18J13936
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高取 伸光 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 浸透現象 / 文化財保存 / 脱塩 / 非平衡熱力学 / 多孔質材料 / 物質移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では塩類風化による劣化の恐れのある大分県大分市に存在する国指定史跡元町石仏を対象に、塩類風化を抑制する適切な保存環境及び環境制御方法を提示することである。ここで塩類風化を抑制するためには、塩の析出量を周辺の覆屋内の温湿度環境を制御することで抑制する方法と、材料内に存在する塩を取り除く脱塩方法が想定されるが、本研究では脱塩の定量的評価を行うための予測手法の開発を行うことを目的とし、塩を含んだ溶液の移動理論について詳細な検討を行う。 脱塩の方法は多岐に亘るが、文化財保存の分野では塩の蓄積している材料(以下、基材)に、別の材料(以下、脱塩材)を貼付させ脱塩材に塩を移動させることにより脱塩を試みる例の一つとして既往研究で、脱塩の進行とともに基材と脱塩材間の塩濃度差が大きくなることで浸透現象が生じ脱塩が促進されるという報告がなされていることを確認した。 浸透現象を考慮した溶液の移動については、これまでに半透膜を介した場合における浸透現象を考慮した解析モデルが提案されている。本年度はこれらのモデルを用い、前述の脱塩実験の再現を行い、既往研究で示唆された脱塩時の浸透現象について、基材と脱塩材間の接触を良くするために用いられたカオリン粘土が大きく影響していることを明らかにした。 次に、この浸透現象の物理的メカニズムをより詳細に把握するために、“半透膜”のように孔径とイオンの粒子径の差から物質を通す、もしくは通さないといった物理的現象に由来するものと、粘土のように電荷を帯びている材料の電磁気力に由来するものに分けた検討を行い、上述の解析モデルでは主に“半透膜”のみを想定しているため、電磁気力の現象を考慮することに必要性を確認した。これらの課題を踏まえ、電磁気力による浸透現象を考慮した溶液の移動理論を、半透膜を介した場合の浸透移動理論を参考に、非平衡熱力学の基礎とした理論構築を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、多孔質材料の細孔径が非常に小さいことから電解質溶液に対し半透膜と同様の性質を持つものと想定していたが、これは現実的ではないことが明らかとなった。従って、既往の半透膜を介した溶液間の浸透現象を説明する理論を用いることは困難となり、電磁気力による溶液の浸透移動理論を構築することが必要となった。しかしながら、電磁気力による浸透現象の研究は土壌や生物学の分野において盛んではあるものの、これらの分野では一般に材料実質部が容易に移動・変形するため、浸透現象の駆動力は溶液だけでなく材料をも動かす。一方で鉱物や建築材料のように材料実質が変形しない場合、浸透現象は純水に溶液の駆動力となり、また材料を破壊するためのエネルギーにもなりうる。これらの発見は非常に新規性の高いことから研究の進捗状況は良いものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
電磁気力を帯びた多孔質材料中における電解質溶液の移動理論の構築を進めるとともに、数値計算に必要とされる現象論係数の測定方法に関する検討を行う。また既往の浸透圧を考慮した脱塩実験の結果を、本モデルを用いた数値解析により再現することにより本モデルの妥当性について検討を行う。
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Research Products
(3 results)