2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J14088
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
豊田 泰淳 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | プロティノス / ティマイオス / 新プラトン主義 / 中期プラトン主義 / グノーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、紀元後3世紀の哲学者プロティノスが著作集『エンネアデス』において展開した思想の独自性を、彼に先行するギリシア哲学の伝統、及び彼と同時代に流布していた非ギリシア的思想の影響下にある思想潮流との比較において正確に切り出すことにある。上記の二点に関連して、平成30年度中に取り組んだ中心的テーマ及びその作業から得られた展望を以下に示す。 1.プロティノスの思想が有する独自性を検討するにあたって、プロティノスの思想と時代的に併存していた所謂中期プラトン主義的思想を比較対象として選び、それらの差異を指摘する作業を行った。具体的には、共通して彼らの思想の基盤を形成するプラトン著作、とりわけ『ティマイオス』篇の解釈を巡り、両者が共通している点と相違している点を分析する作業を行った。主たる分析対象となった論点は、『ティマイオス』篇において展開される世界創造論及びその中で言及される「制作者(デミウルゴス)」概念である。その作業において、プロティノスの主張が有する革新性として、彼がイデア・知性・制作者を同一視している点を指摘した。その上で、その主張の動機として同時代のグノーシス的思想潮流への対抗が念頭に置かれている可能性を示した。 2.上記1.の論点を踏まえ、ギリシャ思想の文献と並行して、ナグ・ハマディ文書を中心としたプロティノスと同時代の思想内容を保存していると考えられるグノーシス文献を検討した。その目的は、世界創造論・宇宙論というテーマに定位した上で、従来指摘されてきたプラトン主義的思想がグノーシス思想に与えた影響を正確に見定めることである。本作業において、ナグ・ハマディ文書中の『ゾストリアノス』、『世界の起源について』、『セツの三つの柱』の記述における『ティマイオス』篇の制作者概念の受容状況を検討することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主に、当初の研究計画を延長するかたちでグノーシス思想の検討を射程に盛り込んだことによる。プロティノスとグノーシスという主題は国内での研究蓄積が多いとは言い難いものであり、改めて研究史を検討する必要が生じた。しかし、上記の論点を盛り込むことによる本研究全体の充実が将来的に期待されるため、現時点ではやむを得ない遅れであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られた展望をもとに、プロティノスの『エンネアデス』中に現れる反グノーシス的記述を精査する。両者の宇宙論はともにプラトンの『ティマイオス』篇の影響下にある一方で、世界の創造・崩壊という観点については完全に相違する。プロティノスが主張する無始無終なる世界という考えを手掛かりに、プロティノスにとっての一者からの発出・還元のあり方、及びその過程におけるこの世界の位置づけを明らかにすることを目指す。
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