2018 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリア脆弱性に関わるペルオキシソームの新規機能
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18J14098
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 秀明 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ペルオキシソーム / ミトコンドリア / オルガネラ / アポトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
ペルオキシソームはほぼ全ての細胞が持つ一重膜に包まれたオルガネラであり、過酸化水素の代謝や脂肪酸の酸化など主に細胞内の代謝経路の調節機能を持つことが知られている。ペルオキシソームの形成異常はZellweger症候群(ZS)をはじめとする多様で重篤な疾患を引き起こす。ZS患者は多臓器の機能不全を患い、出生1年以内に死亡してしまう。このことから、ペルオキシソームの生体における重要性は明らかである。しかし意外にも、ペルオキシソーム欠損細胞は株化出来てしまうほど生存・増殖能は見かけ上正常である。ではペルオキシソーム欠損がどのようなメカニズムでZSの症状を引き起こすかについてはほとんどわかっておらず、その機能には未だに謎が多い。 近年、様々なオルガネラの相互作用が注目されているが、ペルオキシソームと他のオルガネラとの相互作用は未だ不明な部分が大きく残されている。例えば、ペルオキシソームとミトコンドリアは脂質代謝における協力関係や、ミトコンドリアがペルオキシソームの新規形成過程に関わっていることが示唆されているが、逆にペルオキシソームがミトコンドリアの動態や機能に影響を及ぼしているのかについてはほとんど分かっていない。 私はペルオキシソームの未知の機能について検討を行い、その結果「ペルオキシソームはDrp1依存的にミトコンドリアの動態を伸長方向へと積極的に制御する。この機能が破綻することでミトコンドリアが断片化し、Cytochrome cの放出並びにアポトーシス経路の活性化が引き起こされる」というペルオキシソームの新規機能を新たに見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私の昨年までの結果により、「ペルオキシソームがミトコンドリアの断片化及びCytochrome C漏出を抑制して、その結果カスパーゼの活性化と細胞死への感受性を制御している」ことが示唆された。そこで、「ペルオキシソームがミトコンドリアの形態を積極的に制御し、その下流でアポトーシス経路を制御している」という仮説を検証することを目指した。ペルオキシソームによるミトコンドリア形態制御の十分性を検証するため、ペルオキシソーム増加薬剤である4-PBAを細胞に添加した。すると、Control細胞ではペルオキシソームが増加した上、ミトコンドリアが伸長することが分かった。重要なことに、ペルオキシソーム欠損細胞では4-PBAによるミトコンドリア伸長は観察されなかったため、4-PBAによる効果はペルオキシソーム依存的であることが分かった。これらの結果の詳細な画像解析を行った所、4-PBAによってControl細胞においてのみミトコンドリアの長さや体積が有意に増加することが示され、確かにペルオキシソーム増加によりミトコンドリアが伸長することが示された。 さらにペルオキシソームによる形態制御のメカニズムに迫るため、ミトコンドリア分裂因子のDrp1に着目した。すると、ペルオキシソーム欠損細胞ではDrp1がミトコンドリア上で増加していることが分かった。Drp1の機能を阻害することで、ペルオキシソーム欠損によるミトコンドリア断片化は抑制されることも見出した。このことから、ペルオキシソームはDrp1の局在を制御することでミトコンドリアの形態を制御することが示唆された。 以上の結果から、当初の仮説を立証した上に、そのメカニズムとしてDrp1がかかわることを示した。この内容を国際学術誌に投稿し、現在2度の改訂作業を完了した。 以上より、当該年度において当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
ミトコンドリアと小胞体の接触領域(MAM)はミトコンドリア上にDrp1をリクルートし、分裂制御に関わることが報告されている。私は電子顕微鏡での観察によりペルオキシソーム欠損細胞ではMAMが増加している可能性を示唆する結果を得ている。このことから、ペルオキシソームがMAMの形成を抑制しミトコンドリアの過剰な分裂及びCytC拡散を防いでいるという作業仮説を立てた。この仮説を検証するため、ペルオキシソーム・ミトコンドリア・小胞体の三者の位置関係を詳細に記述し、それらの位置関係や接触を操作したときそれぞれの細胞内小器官の形態や機能に対して影響があるかを調べる。
本研究により私が見出した、「ペルオキシソームによるミトコンドリアならびにカスパーゼ制御」が生理的・病理的にどのような意義を持つのかは未だ不明であり、今後の重要な課題である。ミトコンドリアの適切な形態制御は神経細胞の適切な機能にとって重要であり、ミトコンドリア形態異常は様々な神経変性疾患につながる。さらにカスパーゼはアポトーシス以外にも神経発生や細胞分化等、生理的に様々な役割を果たしている。私は、ペルオキシソームがミトコンドリアの形態を制御することでカスパーゼの活性化レベルを適切な範囲に調節し、神経発生や細胞分化の際の不要なアポトーシスを防ぐ役割を担う可能性を考えている。この可能性を検証するため、ペルオキシソーム欠損マウスの神経細胞においてミトコンドリアの形態を観察するほか、カスパーゼ活性化・アポトーシスの亢進が起こっているかを調べる。また、ペルオキシソーム欠損マウスの表現型がミトコンドリアの分裂抑制・カスパーゼ3KOによって抑制されるかどうかを検証する。
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