2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J14168
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 海 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 食肉類 / 咀嚼筋 / 生理学的筋断面積 / 顎関節 / 筋束長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,食肉類の咀嚼筋の発揮する力の指標である生理学的筋断面積(PCSA)を肉眼解剖学的に計測し,これを基に頭蓋骨のみから咀嚼筋PCSAを推定する方法を確立する.さらに,推定したPCSAと骨形態から,頭蓋骨に基づく咬合力の推定法を確立する.生体の咬合力との相関をみることで,推定咬合力の確度を検証する.肉眼解剖学的筋形態,骨形態,さらには生体データを組み合わせ,実証的な頭蓋骨からの咀嚼様式の復元を行う.頭蓋骨からの咬合力の推定法を用いることで,将来的には,博物館の骨格標本や絶滅種の化石標本も食肉類の咀嚼研究の対象にすることができるようになる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「食肉類の頭蓋骨形態に基づく咀嚼筋生理学的筋断面積の推定」:咀嚼筋の実際の生理学的筋断面積(PCSA)が計測できる冷凍標本は稀である.本章の目的は,頭蓋骨から各咀嚼筋PCSAを復元する方法を確立することである.そのため,頭蓋骨における各筋の付着部位の稜線や粗面部を基に,選択的筋付着部位(SMA)を提案し,それが各筋のPCSA値と高い相関を示すことを証明した.「食肉類の咀嚼筋における筋束長と開口の比較機能形態学的関係について」:食肉類の咀嚼器の機能形態学的な構造を解明するためには,閉口だけではなく,開口の構造を検討する必要がある.咀嚼筋の筋束長は開口の大きさに関係することが知られている.本研究の目的は,咀嚼筋のうちどの筋が開口に寄与しているのかを突き止めることである.各咀嚼筋の筋束長と開口角度,最大開口距離との相関を調べた結果,咬筋浅層の筋束長の長さが開口角度,最大開口距離と高い相関を示した.このことから,咬筋浅層の筋束長が長くなり伸展性が上がるほど,大きな開口になることがわかった.「食肉類の咀嚼筋生理学的筋断面積が顎関節構造に及ぼす比較機能形態学的影響について」:本研究では,顎関節の形状の変化を種間で比較し,系統ごとの傾向を把握した.また,顎関節に力を加える収縮方向の異なる各咀嚼筋のうち,どの筋がどのように顎関節の形状に影響を及ぼすかを解明することを目的とした.その結果,体サイズに対する側頭筋の大きさと顎関節の形状に相関があることがわかった.体サイズに対して側頭筋が大きいほど,顎関節前突起の頂点が尾側方向に突出し,さらに顎関節後突起の頂点が吻側方向に突出する.その結果,前後関節突起の頂点同士の間の距離が短くなると示された.これにより,下顎頭が顎関節窩の中に深く嵌まり込む強固な顎関節となることがわかった.
|
Strategy for Future Research Activity |
「食肉類の頭蓋骨形態に基づく咬合力の推定法の確立」:これまでの研究で得た現生食肉類の咀嚼形態のデータを基に,三次元形態学的手法を用い,頭蓋骨から咬合力を推定する手法を確立する.推定咬合力は,アメリカミンクの推定咬合力とフェレットの実際の咬合力を比較することで,その確度を調べる.その後,確立した咬合力の推定法を用い,食肉類32種の頭蓋骨を調べることで,食肉類の咬合力は食性に適応したものなのか,系統的制約に影響を受けているものかを検証する.また,咬合力の発揮には大きく分けて3つの形態学的な要素が重要であるとされている.それらは,1,顎関節から歯牙までのロードアーム,2,顎関節から各筋の作用線までの距離であるレバーアーム,3,筋肉の発揮する力である.食肉類にとって,どの形態学的要素が咬合力の発揮に重要なのかを明らかにする
|
Research Products
(3 results)