2018 Fiscal Year Annual Research Report
超伝導体-二重量子細線接合系でのクーパー対分離を用いた新奇マヨラナ粒子の実現
Project/Area Number |
18J14172
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 洋介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 朝永-ラッティンジャー液体 / 量子細線 / スピン軌道相互作用 / マヨラナフェルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
粒子と反粒子とが等しいという特性を持つマヨラナフェルミオン(MF)が、超伝導体と、強いスピン軌道相互作用(SOI)をもち隣接している2本の量子細線(DNW)との接合によって無磁場下で発現するという理論提案がなされた。この新奇MFの観測には超伝導体からDNWへの高効率なクーパー対分離の実現が必須であるが、このとき重要な役割を果たすのがTLLである。TLLの電子間相互作用によって、クーパー対が分離したときに相対的にエネルギー利得が発生するような系を構成すると、十分な分離効率が得られる。しかし、強いSOIが存在する場合にTLLがどう振る舞うのかは、理論的には活発に議論されてきた一方で実験的にはあまり検証されていない。理論においても、影響がないとするものから、SOIによってTLLが壊れうるとするものまで、多様な議論が繰り返されている。 そこで、強いSOIを持つとされるInAsの量子井戸基板に細線を形成し伝導測定をすることによってSOIの影響下で1次元電子系がどのように振舞うのかを検証した。研究員らは極低温環境下で測定を行った。一般に系がTLL相であれば、電流値のバイアス電圧依存性は温度のべき乗でスケールすることが知られている。実際に研究員らが実験を行ったところ、得られたデータはきれいにスケールし、理論曲線によく一致した。 もしSOIによってTLL相が壊れているとすれば、スケーリングが成り立つことは考えにくい。そこで研究員らが理論グループとの共同研究によりSOIの影響を理論的に検証した結果、SOIが極めて強いケースでもTLLへの影響は小さく、電子相関の強さはほとんど変化しないことが分かった。 解析により得られた相互作用の強さは先行研究とも整合性があり、クーパー対分離効率の試算ではMF発現に十分であるということもわかった。加えてゲート電圧によって調整可能であるということも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新奇MFの研究は、交換により位相が付与される性質を利用したトポロジカル量子コンピュータなどの工学的応用につながるだけでなく、MF出現の背景にある物理の普遍性を明らかにできるという学術的な意義も持つ。 この新奇MFの観測には超伝導体からSOIの強いDNWへの高効率なクーパー対分離が必須であるが、強いSOIが存在する場合にTLLがどういった振る舞いを示すのかは、これまで理論的には活発に議論されてきた一方で、実験的にはあまり検証されていなかった。これは今までよく研究されてきたカーボンナノチューブなどではSOIが弱いことや、自己形成細線ではSOIが強くても構造上の制約が強いことなどによる。理論的な議論においても、ほとんど影響がないとするものから、SOIによってTLLが壊れうるとするものまで、さまざまな議論が長年にわたって繰り返されてきた。 研究員らは、強いSOIを持つとされるInAsの量子井戸基板上に細線を形成し、伝導測定をすることによってSOIの影響下で1次元電子系がどのように振舞うのかを検証した。量子井戸を用いたことでこれまでのデバイス構造の制限を回避し、広い測定領域で高安定なデバイス作製ができた。測定により得られた結果は理論グループとの共同研究で得られた結果と整合し、SOIのTLLへの影響についての新たな知見を与えた。 また一方で、試算によりMF実現のプラットフォームとしても十分な相互作用の強さが得られたことが分かった。 以上の結果は、長年のTLLにおけるSOIの議論に寄与する結果であると同時に、上記のMF実現に向けた研究を大きく前進させるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究員らは、本研究により得られた物理的知見およびデバイス加工のノウハウを生かし、今後もMFの観測に向けた研究を行っていく。 具体的には本研究のデバイス構造をさらに発展させ、局所的に電子密度を制御するゲート構造や超伝導接合などを新たにデザイン・設計し、そのふるまいを詳細に調べる。特に超伝導と接合された半導体が超伝導化する、超伝導近接効果は上記の新奇MF実現に重要な役割を果たすと考えられているが、これについてはよくわかっていない部分が多い。そこで研究員らは、超伝導接合下の半導体部分の電子密度を制御するゲート構造を考案し、実際に作製を行っている。 超伝導近接効果の検証には、超伝導体と半導体の良好な接合が必要になるほか、ヒステリシスの少ない局所ゲートの作成には絶縁素材の選定や構造の最適化が求められるなど、実験的・技術的困難は多いが、これらを一つ一つ乗り越えていく必要がある。上記のような実験が可能になれば、MF実現へ大きく近づくといえる。
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[Presentation] Strong Electron-Electron Interactions of Tomonaga-Luttinger Liquid observed in InAs Quantum Wires2018
Author(s)
○Y. Sato, S. Matsuo, C.-H. Hsu, K. Ueda, Y. Takeshige, H. Kamata, J. S. Lee, B. Shojaei, J. Shabani, C. Palmstrom, Y. Tokura, P. Stano, D. Loss, and S. Tarucha
Organizer
第8回半導体/超伝導体量子効果と量子情報の夏期研修会
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[Presentation] Tomonaga-Luttinger liquid behaviour in 1D electron system fabricated from InAs Quantum well holding strong spin-orbit interaction2018
Author(s)
○Y. Sato, S. Matsuo, C.-H. Hsu, P. Stano, D. Loss, K. Ueda, Y. Takeshige, H. Kamata, J.S. Lee, B. Shojaei, J. Shabani, C. Palmstrom, Y. Tokura, S. Tarucha
Organizer
“Tomonaga-Luttinger liquid behaviour in 1D electron system fabricated from InAs Quantum well holding strong spin-orbit interaction”, International Conference on the Physics of Semiconductors
Int'l Joint Research
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