2018 Fiscal Year Annual Research Report
Thermospectroscopic imaging for heat transfer process of soft material
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18J14350
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
劉 芽久哉 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 局所熱伝導計測 / 熱イメージング / 電子線リソグラフィー / ナノ薄膜 / 電子線リソグラフィー / 赤外分光イメージング / 相転移 / 輻射率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は動的過程の熱の拡散だけでなく、結晶化度や分子配向など、多くのパラメータの時間的変化をミクロスケールで、かつ同時にイメージングできる統合システム(マルチスペクトル赤外熱イメージングシステム)を構築することである。 赤外線カメラを用いた温度イメージングは、非接触の温度測定であることから、試料内の温度場を乱さずに温度分布を可視化できるため、熱物性値の2次元イメージングなどへの応用が期待されている。しかし、赤外領域での輻射強度は、試料の温度だけでなく輻射率にも依存するため、混合系をはじめとした輻射率分布が強い系では、温度分布を正確に見積もることは難しい。マルチスペクトル赤外熱イメージングシステムは、赤外分光イメージングと中赤外の熱イメージングを結合することでこの輻射率分布を逐次補正できるイメージングシステムである。今年度は、赤外スペクトルを用いた熱イメージングの輻射率分布補正のアルゴリズムの確立、熱イメージンの高感度化を中心に、動的に変化する温度場の赤外線カメラを用いたイメージング手法を開発した。 今年度の研究で特に注目したのは、有機分子性結晶の相転移過程である。有機分子性結晶の相転移近傍では核からの逐次的な構造発現に伴って、測定面内に複数の相が共存する瞬間が存在する。このような状況では異なる輻射率をもった複数の相をまたがる温度分布を測定する必要があり、従来の方法では温度分布の絶対値を得ることは困難である。この問題を解決るために、本研究で開発してきたマルチスペクトル赤外熱イメージングシステムを用いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マルチスペクトル赤外熱イメージングシステムのデータ解析アルゴリズムを確立するためには、良好な熱シグナルと赤外スペクトルシグナルを得られるサンプルが必要である。特に、熱イメージング測定では、サンプルを保持する基板への熱拡散がイメージの温度空間分解能の低下をまねくことが知られており、今回はこの基板の検討から始めた。熱イメージングによる2次元の温度分布測定でのシグナル感度を上げるための基板として、SiNナノ薄膜を用いることを検討した。この基板は中心に穴の開いたSiの基板上に、10~1000nmのSiN薄膜が保持されているもので、中心部分はSiN薄膜が空中で保持されている状態になっている。この部分では基板の厚さが極端に薄いため基板への熱流が極端に抑えられており、この上に配置されたサンプルは、熱的には周りを断熱されて保持された状態に近い。ナノ薄膜上での熱イメージングは、シグナル感度を向上させ、マルチスペクトル赤外熱イメージングシステムを有機分子性結晶の相転移などへ適用する上で効果的なプラットフォームとなる。今回、サンプルとして用いるのはn-tetracosaneである。C24は50.2 ℃に融点を持ち44.7℃から融点のまでの間に固相-固相転移を持つ。 今年度は、ナノ薄膜上での相転移の観察から、解析アルゴリズムの向上を図ると同時に、このナノ薄膜の熱物性値の測定も行なった。熱物性値は加熱に対するサンプルの温度応答から計測されるため、サブミクロンスケールの熱物性値計測を行うには、このスケールのセンサーやスポット加熱源を用いた温度計測を確立する必要がある。今回は、可視光よりも波長が短く50nmスケールのスポットに集光できる、電子線の吸収-発熱による加熱と、電子線リソグラフィーによって作製した起電力型ミクロセンサーを用いて、サブミクロンスケールの加熱に対するサンプルの温度応答の計測を行なった。
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Strategy for Future Research Activity |
本実験では、混合系の輻射率補正を、相転移過程に適用した。相転移に伴って輻射率が大幅に変わる過程でも、赤外分光イメージングによる輻射率分布補正が有効で、温度分布を見積もることが可能である。特に今年度の研究では、本システムで得られる膨大なイメージングデータの解析手法に大きな進歩があった。本システムで得られる1次データは面内256 x 256ピクセル各点の赤外スペクトルと熱輻射強度の時間変化であり、データ量は膨大である。今年度の研究では、これら二つのシグナルに対して、いくつかのモデルを構築し、より効率的なデータ解析を実現した。これにより、これまで指定した点で個々に計算していた温度変化が、測定面内全体で容易に計算できるようになった。 また、AuとNiの異種金属界面を温接点とする起電力型センサーとして用いて、特定の周波数で変調させた電子線照射の、照射位置と測定位置での位相遅れを測定することでナノ薄膜上での熱拡散を測定することができた。 本年度の研究で、マルチスペクトル赤外熱イメージングシステムのための測定プラットフォームの構築、システムの各構成要素(ナノ薄膜等)の基本的な物性値の測定、解析手法の効率化などが完了し、これまでの溶液混合システムに加えて、融体からの結晶化など動的過程が容易にイメージングできるようになった。今後は、構造発現過程により焦点を当てて、偏光赤外スペクトルとの統合システムを構築する予定である。
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Research Products
(16 results)