2018 Fiscal Year Annual Research Report
Search for heavy right-handed neutrinos in high-energy proton-proton collisions
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18J14377
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
赤塚 駿一 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 素粒子物理 / データ収集システム / トリガー / 粒子識別 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界最高エネルギーの陽子加速器を用いた衝突実験において、これまで発見されていない重い新粒子の探索を目指して研究を行なった。新粒子の発見のために、「ミュー粒子」を用いた衝突事象選別(トリガー)の効率90%以上でのデータ取得と、械学習技術 の粒子識別への適用の研究の2つを遂行した。 まず、ミュー粒子トリガーの効率を90%以上とするため、検出器の異常への対処方法の改良を行なった。検出器に異常が発生した際、これまでは対症療法的な処 理がされており、その原因の究明が十分にされていなかった。 私は、異常を発見した際にデータからその原因を 分類し、どのような処理をすべきかを明確に定めることで、高い効率でデータ取得ができる仕組みを作成した。同時に、異常ノイズ事象検知システムの判定システムの改良・運用を行った。このシステムでは、検出器の情報をリアルタ イムに処理して、多量の信号が見られた時にトリガーを一時的に停止することで、読み出し自体がストップすることを避けることができる。多量の信号、というのは具体的には一定以上の数の検出器が、一定時間以上信号を出し続けた場合のことである。この数・時間のパラメータを最適化し、より高い精度で異常ノイズを判定しつつ、 通常の事象の時はなるべくノイズ判定しない条件を定めた。このシステムの導入により、ノイズによりデータ取 得が停止してしまう時間を 70%以上削減することができた。 機械学習の粒子識別への適用に関しては、複数の検出器の情報を組み合わせるアルゴリズムの新開発を行なった。今年度は、電子とミュー粒子の識別の開発に取り組み、これまでの手法に比べて 15%程度、誤識別率を下げることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度計画していた「ミュー粒子トリガーの改良」と、「機械学習を用いた粒子識別」の2つの研究について、以下に記す。 まず、ミュー粒子トリガーの改良に関しては、計画の通り90%以上の効率、および停止時間の削減に貢献することができた。特に、当該年度はデータ取得の最終年であり、取得できたデータ量が多かったため、ミュー粒子トリガーの効率を高く維持できたことで、より多くの統計量で新粒子の探索を行うことができる。 次に、機械学習を用いた粒子識別に関しては、当初想定していなかった課題により、やや計画より遅れている。これは、タウは粒子が複数の粒子に崩壊するため、粒子識別に条件が複雑になる傾向があることに起因する。これに対して、電子やミュー粒子は寿命が十分長く検出器内では崩壊しないため、識別条件は比較的簡単である。今年度は、機械学習による粒子識別自体の手法の確立のため、電子とミュー粒子の粒子識別の研究を行なった。また、機械学習への入力変数として、これまで使われていなかった検出器情報を利用する研究を行なったが、識別精度大きな向上には繋がらなかった。 総じて、研究計画に対してやや遅れているが、電子やミュー粒子の粒子識別にも機械学習が利用できることが分かった。今後、タウだけでなく電子やミュー粒子を用いた新粒子探索にも応用できる可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は電子・ミュー粒子の粒子識別に機械学習を利用する研究を行なった。この結果、機械学習を用いることによる改善は、低い運動量でより大きくみられるということがわかった。この傾向はタウ粒子に対する粒子識別でもみられているが、電子・ミュー粒子の方が改善が大きいことがわかっている。 研究課題で探索する「重い右巻きニュートリノ」は高い運動量の粒子を出すため、機械学習による改善は当初想定していたより小さいということが判明した。ここで、私は「電弱ゲージーノ」に注目した。電弱ゲージーノはダークマターの候補であり、もし発見できれば直接新物理の証拠となる。この粒子は低い運動量の電子・ミュー粒子・タウ粒子に崩壊することがあり、また、このとき、宇宙にあるダークマターの量をうまく説明できることが知られていて、非常に注目されている。機械学習を用いた粒子識別をフルに活用して新物理の証拠を掴むため、この粒子の探索に切り替える予定である。
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