2018 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of Ignition Mechanism and Control of Ignition Delay of Ionic Liquid Propellant Based on High Energy Salt
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18J14397
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東山 登 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | エネルギー物質 / レーザ着火 / 推進薬 / 化学反応機構 / 炭素材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究目標とする「高エネルギー塩を基材としたイオン液体推進薬の着火機構解明と着火遅れ制御」として、大きく①イオン液体の気相領域における分解・燃焼反応機構と②非接触加熱着火法に関する成果を得た。近年、10cm×10cm×30cm(3U)前後サイズの小型衛星の民営的開発・運用の潮流が到来している。小型衛星は地上観測や通信への活用が期待されており、民需市場において単位衛星当たりの運用寿命を延ばすことで衛星運用コストの低減が可能となる。その解決策の一つとして、姿勢・軌道制御スラスタ(RCS)の搭載が挙げられる。RCSの性能は推進薬依存であり、システムの簡略性や小型化の要求から酸化剤と燃料が予混合された一液推進薬の使用が望ましい。本研究では高エネルギー塩であるアンモニウムジニトラミド(ADN)を基材としたイオン液体推進薬に着目した。本イオン液体推進薬はADNと硝酸塩やアミド化合物の共融液体であり、従来の一液推進薬であるヒドラジンと比較して2倍近い密度比推力を有するとされる。その反面、断熱火炎温度が2000 Kを超えるため、従来の着火具である触媒やヒータ加熱では急速に劣化してしまいスラスタ寿命が短命化する問題を有する。また溶媒を含まないことから一般的な液体燃焼とは異なる反応流れにより着火・燃焼に至る可能性が考えられる。よって、イオン液体推進薬を用いたRCSスラスタの設計・開発を目指す上で、イオン液体推進薬の着火・燃焼パラメータの予想や有効な着火方法の検証が必要となる。そこで本年度はイオン液体推進薬の着火・燃焼機構解明と有効な着火法の策定を行ってきた。その結果、①については有効な化学反応機構の構築とイオン液体推進薬の着火・燃焼反応サイクルの提示、②については吸光材にカーボンを用いた連続光レーザによる非接触加熱着火の有効性とその物理的着火流れを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず申請者は、イオン液体推進薬の着火・燃焼機構解明として、燃焼への関与が期待されるラジカル種に着目し、これらがイオン液体推進薬分解ガスを攻撃する素反応を列挙した。選定した素反応について量子化学計算を用いて反応速度パラメータを導出した。計算された素反応群と既往の化学反応機構を組み合わせ、改良型化学反応機構とした。本機構を用いてイオン液体推進薬の燃焼温度プロファイルを再現したところ、既往の実験結果と一致した。着火・燃焼時の反応流れを解析した結果、温度上昇プロファイルは、OHラジカルの生成・消費を中心とした2つの反応サイクルに依存して発生することが分かった。次に、連続光レーザによる非接触加熱着火について検討を進めた。本着火法ではレーザ波長に対する着火対象の吸光効率や吸収エネルギの熱変換効率が重要である。この2点を満たすため、吸光材としてカーボン材に着目し、様々な形状のカーボン材を選定しその適用性を評価した。まず熱測定においてイオン液体推進薬単体とほぼ同じ高い熱安定性を示したことから、吸光材としてカーボン材は適当であると判断した。次にCWレーザ着火試験から、カーボン材の形状の差が混合サンプル中の熱拡散の程度に影響し、結果的にイオン液体推進薬のCWレーザ加熱着火性に影響を及ぼすことが明らかとなった。提案される物理的着火流れは以下の通りである。(1)分散性が低いカーボン材中でCWレーザ被照射部位が固定化され、局所的な加熱スポットが形成、(2)カーボン材加熱部位と周囲のイオン液体推進薬間で温度差が発生、カーボン材からイオン液体推進薬へ熱流入が進行、(3)熱流入でイオン液体推進薬は着火温度まで急速昇温され着火に至る。これらの成果は投稿論文2件、国際会議発表:3件,国内学会発表:3件、特許:1件にて公表した。以上の進捗を踏まえ、予定通りの成果が得られ、公表し、順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終的なゴールはイオン液体推進薬を用いた小型衛星姿勢制御用一液スラスタシステムの提案である。平成31年度の研究方針は3点ある。第1にCWレーザ着火におけるレーザパラメータの整理と相関性評価、第2にスラスタシステムの検討とスラスタ設計フローチャートの提案、第3に実機スラスタ試験の実施を目標とする。1つ目は、平成30年度に成果報告されたCWレーザ/カーボン材の組み合わせにおいて、出力やビーム径といったレーザパラメータと着火パラメータの相関を評価し、パラメータの最適化を行う。2つ目では、CWレーザとカーボン材を用いた場合に考えられる一液スラスタシステム及びスラスタ設計パラメータの列挙と設計流れの提案を行う。最終的に1・2で得られた結果を基に、実機スラスタを設計・作成し、圧力や温度・推力変位からスラスト性能を評価する。 以上の成果は、宇宙推進工学においては本イオン液体推進薬のみならず、混合系で用いられる液体燃料等の開発や利用、さらには他分野としてガス発生剤をはじめとするエネルギー物質を用いたデバイスへの応用に資する知見となる。
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Research Products
(11 results)