2018 Fiscal Year Annual Research Report
エレクトロマグノンによるテラヘルツ帯の創発電気磁気現象の開拓
Project/Area Number |
18J14398
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
肉倉 洋恵 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | マルチフェロイクス / テラヘルツ光 / エレクトロマグノン / 非線形光学効果 / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
マルチフェロイクスは磁気秩序に由来した強誘電性を発現することから強い電気磁気結合をもち、その励起状態として「エレクトロマグノン」という巨大共鳴をテラヘルツ帯に持つ。この強い電気磁気結合と巨大共鳴をおちいることで創発電気磁気現象の開拓を目指している。 従来研究に用いているテラヘルツ光は電場強度が弱く物質に照射効果を与えることができない。そのため高強度化した可視のレーザー光を用いて新しい光学系を構築し高強度テラヘルツ光生成を目指す。 高強度化したテラヘルツ光を物質に照射することで、光照射効果による高密度のエレクトロマグノン生成を試みる。このエレクトロマグノンの緩和過程においてマグノンスピン流を生成し、テラヘルツ光の電圧変換を目指す。このエレクトロマグノンはマイクロ波領域でよく研究されている強磁性共鳴と比べて100倍以上強い振動子強度を持つことから、スピン流生成効率の飛躍的な増強を期待している。 またエレクトロマグノンを介した高強度テラヘルツ光による強誘電相生成や高効率な超高速コヒーレント相制御を目指す。強誘電分極を第二次高調波を用いて観測を目指す。さらにはこの強誘電状態を利用したテラヘルツ誘起の非線形電気磁気光学の開拓を行う。 自然旋光性を用いることでスピン由来のカイラリティの観測と制御を目指す。空間イメージングによって、カイラルドメインと強磁性ドメインの相関を明らかにし、電場・磁場駆動のドメイン制御の可能性を探索する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①テラヘルツ光を高強度化するための新しい光学系の立ち上げ 修士課程においてマルチフェロイクスにテラヘルツ光を照射したときにおこるエレクトロマグノン共鳴の基礎的性質の解明を行った。この結果を基礎として博士過程では巨大共鳴を用いた新しい展開を目指している。修士課程においては光を物質に照射し入射光と透過光の違いを測定することで、共鳴の大きさやエネルギーなど基礎的性質を研究していた。この従来物性測定に用いている光では光の電場強度が弱すぎて物質に照射効果を与えることができない。そこで修士課程で得た結果を基礎として、今度は光照射効果を与えるため光の電場強度を強くするような新しい光学系を立ち上げに挑戦した。 研究室として初めての試みでありノウハウがなく苦戦した。最初は計画していたような高強度化ができず、その原因を探るため光学系に組み込んだレンズやミラー後の光のスペクトルを一つずつ測定した。その結果光学系を全て反射型に変更することでうまくレーザー光源を取りまわすことに成功し、テラヘルツ光の高強度化が飛躍的に向上した。その後も調整を重ねたところ非常に強い電場強度をもつテラヘルツ光の発生に成功した。 ②テラヘルツスピントロニクスへの展開 ①の高強度テラヘルツ光を用いて新しいスピントロニクスへの展開に挑戦した。スピンの流れを利用することでテラヘルツ光を電圧信号に変換するのを目標に研究を行った。成功するとテラヘルツ光検出器として使えることや、将来の省エネルギーデバイスとなる可能性がある。 まずは測定につかうデバイス作製から行った。準備したデバイスを用いて高強度テラヘルツ光を照射したところデバイスに熱の効果を与えることができた。温度勾配によってスピン流が流れるという先行研究があり、テラヘルツ光によって初めて大きなスピン流を流すことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
①超高速磁化制御 テラヘルツ光によるスピン流生成に挑戦し、熱の効果によって巨大なスピン流が流すことに成功した。課題としてはこの熱の効果によるスピン流が大きいため、エレクトロマグノン共鳴に寄与するスピン流の効果をうまく分離することができなかった。エレクトロマグノンによるスピン流は、共鳴による物質内部の磁化の緩和によるものと考えているため今後はテラヘルツ光によって直接磁化に作用し観測を目指す。具体的には高強度テラヘルツ光を入射し内部の磁化の変化をファラデー効果を用いることで観測する予定である。 ②非線形効果による強誘電相生成 テラヘルツ光によって隠れた強誘電相を生成し光によるマルチフェロイクス制御を目指す。修士課程においてエレクトロマグノンの基礎的性質を解明してあるので、まずその結果と比べることで高強度テラヘルツ光を入射させたときエレクトロマグノンがどのような振る舞いをするかを詳しく調べる。非線形領域にいっていると共鳴周波数が低エネルギー側にシフトすると考えられる。磁場を印加し磁気構造を変化させ、個々の磁気構造での共鳴の振る舞いを調べたいが、高い磁場を印加できないという装置の問題点がある。そこでいくつかの物質を用いることで低磁場において、異なる磁気構造を得ようと考えている。最終的には隠れた強誘電状態を作り、この強誘電分極を用いたテラヘルツ誘起の非線形電気磁気光学の開拓を行うことを目標にしている。 ③カイラルドメインのイメージング 自然旋光性によってカイラルドメインイメージングを目指す。可視光を光源として透過型の光学系を立ち上げ測定を行ったところ、磁化におけるファラデー効果の寄与が大きくうまく観測することができなかった。そのため今後微小な回転を高精度に測定できるような光学系を立ち上げカイラルドメインイメージングに挑戦する。
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