2018 Fiscal Year Annual Research Report
移行期正義が民主主義と平和に与える影響に関する理論的・実証的研究
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18J14490
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
喜多 宗則 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 移行期正義 / クーデタ / 国内紛争 / 計量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
いわゆる「移行期正義」は、体制の安定性や平和に影響を与えるのだろうか。本年度の研究では、近年研究が盛んになっている移行期正義の取り組みに焦点をあて、これまであまり分析の俎上には あがらなかった移行期正義とクーデタ及び移行期正義と紛争の継続期間の関係に注目する。 本年度は2本の論文をほぼ完成させることができた。第一に、人権裁判が民主化後の国々におけるクーデタにどのような影響を与えるのかについて計量分析を改めて行った。これまで行っていた計量分析をデータセットの段階から見直し、既存のデータセットに出来る限りの修正を加え、妥当性をさらに高めるよう努めた。その結果、人権裁判のうち、軍の高官を対象とした人権裁判はクーデタを引き起こしやすくさせるものの、そのクーデタは 失敗する確率が高いこと、一般的な官吏を対象とした裁判にはそうした効果が見られない可能性が示唆された。 第二に、人権裁判のリスクが武装勢力の国内紛争に関する意思決定にどのような影響を与えるのかについても計量分析を行った。武装勢力が紛争を続けるか否かは、武装勢力の目的や資源のみならず、紛争後の身の 安全も影響すると考えられる。例え和平合意を結んだとしても、人権裁判で訴追される恐れがあるならば、武装勢力は可能な限り紛争を長引かせようとする。従って、訴追のリスクが高いと武装勢力が認識している場合、紛争は長期化すると考えらる。ただし、人権裁判を能動的に行うのは民主主義体制下のみであるため、裁判のリスクがもたらす効果は政治体制に条件づけられることが予想される。そこで、人権裁判が行われるリスクを「周辺国での人権裁判件数」で操作化し、紛争期間を従属変数とした計量分析を行った。その結果、民主主義体制下の 内戦では周辺国の人権裁判が増大すると紛争が長期化するが、権威主義体制ではそうした影響が見られないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進展していると評価している。 移行期正義とクーデタの関係については先述したように大まかな計量分析は完了しており、今後必要とされるのはコントロール変数の取捨選択を主としたモデルの精緻化のみであると考えられる。また、移行期正義と国内紛争の関係についても同様に計量分析は順調に進展していると言える。来年度に実施予定である地域にフォーカスした分析についても、実際にセルビアを訪問したことで予備的な調査の段階に入ることが出来たと考えられる。ただし、残念ながら本年度では理論モデルに関する研究を大きく進展させることが日程上困難となってしまった為、当初の計画以上の成果をもたらすことが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度の研究では、第一に、学内での研究報告及び日本政治学会で受けたコメントを参考に先述の2本の計量分析に関する論文のロバストネス・チェックを行う予定である。特に移行期正義と国内紛争の継続期間に関する実証分析は、裁判の対象による効果の違い、時期や地域間での裁判の効果の違いを検証すべく、1) 裁判のデータをより細かく分類、2) 冷戦以後・以後でデータセットを分割、3) 地域ごとにデータセッ トを分割した上で再分析を行うこととしたい。 第二に、移行期正義とクーデタの関係を分析する過程で、 クーデタを抑制すると考えられる恩赦法が有意な効果をもたらさないことが示唆された。そこで先行研究を改めて精査したところ、人権裁判や真実委員会に関しては知見が蓄積されつつあるものの、アムネスティについてはあまり盛んに研究が行われてきていないことが明らかとなった。特に、恩赦法の制定を従属変数とした分析は僅少であり、包括的な移行期正義研究を目標とする本研究の枠組みの中で恩赦法を研究内容に含めるのは十分に意義のあることである。従って、来年度は恩赦法に関する分析にも取り組む予定である。 第三に、セルビア共和国を訪問した現地調査は、来年度の本格的な現地調査に向けた予備的なものとなった。ベオグラード大学の関係者や、国連の元職員、ボスニアにおける人道援助の経験者にインタビューを行い、ユーゴスラビア紛争下での人権侵害状況について聞き取りを行ったが、来年度はインタビューの対象を市民にまで拡張する予定である。 第四に、ゲーム理論に基づいた理論モデルを提示すべく、来年度は体制転換及び国内紛争のダイナミズムをゲーム理論化した先行研究を渉猟し、可能な限り早い段階でモデルの構築に入る予定である。
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Research Products
(1 results)