2018 Fiscal Year Annual Research Report
アミロイドβ産生酵素プレセニリンの構造活性相関解明
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18J14653
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
蔡 哲夫 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / γセクレターゼ / アミロイドβ / 構造解析 / 膜内切断 / アスパラギン酸プロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病は不可逆的な記憶障害を特徴とし、病理症状としてAβ42を主体とした老人斑の蓄積が挙げられる。この為、Aβ42の産生を決定するγセクレターゼは標的分子として古くから研究されてきた。今までの検討により、私はγセクレターゼの活性中心サブユニットであるプレセニリン1(PS1)の第3膜貫通領域(TMD3)の面する親水性ポアがAβ42の産生の変動によって変化することを見出している。本研究ではAβ42産生とポアの変動に関与するTMD3の構造変化を同定し、γセクレターゼの構造活性相関への理解を深めた。 酵素活性の制御に関与するTMD3の構造変化を同定する為、本研究ではクロスリンカーとE2012を用いたin vitro assayを行い、TMD3の構造を固定した時のAβ産生の変化を測定した。クロスリンカーは2つのシステイン残基が十分近傍にある場合に両者をジスルフィド結合で強固に結び、タンパクの特定残基間の構造変化を阻害することを可能とする化合物である。一方E2012はγセクレターゼモジュレーターであり、酵素活性の増強を通じて毒性種Aβ42の産生比率を特異的に減らすことができる薬剤である。本研究ではTMD3のL166とF177、及び活性中心に近いL383とI387それぞれにシステイン残基を導入し、L166とL383、F177とI387をそれぞれクロスリンカーで物理的に結合させた。その結果、L166とL383を結んだ場合にはE2012によるAβ42の産生減少効果が有意に減弱されることが確認され、またF177とI387を結んだ場合にはそのような変化が見られないことも発見した。L166はTMD3の細胞質側、F177はTMD3の内腔側の残基であることから、TMD3の細胞質側が活性中心から離れるような構造変化をすることが酵素活性の増加及びAβ42の産生減少に重要であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではアルツハイマー病発症に関連するγセクレターゼのうち、活性中心を有するPS1のTMD3に着目し、毒性タンパクAβ42の産生とTMD3の構造変化の関係性を明らかにした。γセクレターゼの発見から切断酵素に関する研究は精力的に行われてきたが、PS1のTMD3に着目した研究報告は本研究が世界初であり、その点に於いてまず非常に有意性が高い。また、検証対象であるTMD3は単粒子構造解析の結果からγセクレターゼの活性中心から少なくとも10Å以上離れていると報告されてきたが、本研究の結果からその半分をはるかに下回る距離まで近づくことが証明された。本研究ではシステイン残基を標識する世界的にも独創的な手法で構造解析を行っているが、生細胞を使用していること、解析タンパクが活性を保持している状態であることなどの実験手法上の特徴などが、顕微鏡では観察されない構造変化の検出をも可能にしたと考えている。こうした構造変化の重要性や意義を考察するには更なる解析が必要ではあるが、TMD3はγセクレターゼに於いて基質を切断する空洞を形成している領域の一つであることも報告されており、本研究をベースにしてγセクレターゼへの理解が益々深まることが期待できる。以上のことを鑑みて、現在までの研究はおおむね順調に進歩していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究目的に基づき、現在までに明らかにしたことを発展させる為、主に以下の解析を遂行する。 1)、ロイシン、イソロイシンなどのβ分枝鎖アミノ酸はhelix間の相互作用を増強することが知られているが、TMD1と基質C99にもこれらの残基がリッチな領域が存在する。そこで、該当アミノ酸を電荷的、性質的に異なるアミノ酸に置換した変異体を作成し、Aβ42の産生比率に与える変化からβ分枝鎖アミノ酸の役割を考察する。 2)、γセクレターゼモジュレーターによってPS1のTMD1とTMD3いずれにも構造変化が起きることを発見している。そこで、標識実験や架橋実験を組み合わせ、片方のドメインを意図的に固定した際のもう片方のドメインに与える影響を調べることにより、Aβ42産生が減少する時の構造変化の流れを明らかにする。 3)、膜タンパクの1つロンボイドファミリーであるGlpGタンパクには、ヒスチジン、セリンなどが水分子保持基として機能し、酵素の活性化に伴って水分子を活性中心に供与する働きがあることが示唆されている。申請者がこれまでに明らかにした、活性に重要なTMD3内の領域の近傍にこうした残基が複数確認される。そこで、シミュレーション解析などを通じ、様々な活性状態における候補残基の水分子との結合強度や構造変化を複合的に解析して考察する。 4)、電子顕微鏡による構造解析の結果、γセクレターゼによる切断が起きる直前、TMD3に位置するS169が基質と直接相互作用することが示されている。S169は、申請者が同定したTMD3内の重要な構造変化が起きる領域から数残基しか離れておらず、活性変動時に大きな影響を受けることが考えられる。そこで、上記の架橋実験に加え、光親和性標識実験によって基質と酵素の相互作用を調べ、酵素の活性状態や特定の構造を取る状態と紐づけることで、申請者が明らかにした構造変化の機能的意義を見出す。
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Research Products
(3 results)