2018 Fiscal Year Annual Research Report
ボルナウイルス感染におけるRNA編集酵素ADAR2の意義と分子基盤の解明
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18J14718
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柳井 真瑚 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ボルナ病ウイルス / RNAウイルス / RNA編集酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
ボルナ病ウイルス(BoDV)の感染初期にADAR2が関与しているかを明らかにするために、ADAR2ノックダウンオリゴデンドログリア細胞株を樹立し、BoDVを接種し、4日後に感染細胞率を免疫蛍光染色法により測定した。その結果、ADAR2をノックダウンした細胞ではBoDVの感染効率が有意に減少することが明らかとなった。次に、ADAR2がBoDV感染の広がりに重要であるかを明らかにするために、上記で感染させた細胞の継代を続け、ADAR2ノックダウン細胞における感染細胞数の同方法にて評価した。その結果、ADAR2をノックダウンすると、BoDV感染の広がりの遅延が観察され、その動態は陰性対照と有意に異なることが明かとなった。以上の結果より、ADAR2はBoDVの感染初期および、その後に続く感染の広がりの両方に重要であることが示唆された。BoDVの持続感染の維持にADAR2が重要であるかを調べるために、BoDVが持続感染しているオリゴデンドログリア細胞にレンチウイルを用いてADAR2に対するshRNAを導入し、BoDVゲノム量および、ウイルス力価を評価した。その結果、ADAR2をノックダウンするとBoDVのゲノムRNA量、ウイルス力価が共に有意に減少した。このとより、BoDVの持続感染の維持にADAR2が重要であることが示唆された。 次に、ADAR2ノックダウンBoDV持続感染細胞から回収したウイルス粒子を用いて感染実験を行い、サイトカインの発現を定量した。その結果、ADAR2をノックダウンしたBoDV持続感染細胞から回収したウイルスは、陰性対照と比較して、L-6およびCXCL10といったサイトカインの発現を有意に上昇させた。これらのことより、BoDVのゲノムRNAがADAR2の編集活性を利用して自然免疫系の誘導を回避しているという仮説が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、ADAR2ノックダウン細胞を用いた感染実験から、BoDVの感染初期、感染伝播、および持続感染の維持にADAR2が重要であることを明らかにした。また、ADAR2ノックダウン細胞に対するマイクロアレイ解析およびsiRNAスクリーニングより、ADAR2が宿主の遺伝子であるCXCL1およびRab27bの発現を抑制することにより、間接的にBoDV感染効率に寄与していることを明らかにした。さらに、ADAR2ノックダウン持続感染細胞より回収したウイルス粒子を用いた感染実験を実施したところ、同細胞より回収されたウイルス粒子は、陰性対照と比較して有意に自然免疫関連遺伝子の発現を上昇させた。これらのことより、BoDVはゲノムRNA中にADAR2によるA-to-I編集を入れることで自然免疫系が誘導されるのを回避しているという仮説を立てるにいたった。現在、そのメカニズムをより詳しく検証するための実験を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに申請者は、BoDVの生活環全体を通してADAR2が重要であることを明らかにした。さらに現在、ADAR2によるBoDVゲノムRNAへの編集が自然免疫の誘導を回避していることを示唆するデータを得ている。そこで、本年度は、下記の実験を行い、BoDVがADAR2をどのように生活環に利用しているかを明らかにし、国際学術誌に論文を投稿する予定である。 (1)BoDVゲノムRNA上におけるADAR2によるA-to-I編集の解析:BoDV持続感染細胞株にADAR2野生型および、編集活性欠損変異体を発現させ、BoDVのゲノムRNAにA-to-I編集が生じるかを、ダイレクトシークエンス法により解析する。また、A-to-I編集の起こったサイトが二本鎖RNA構造をとり得るかを評価するために周辺領域の特徴を解析する。 (2) ADAR2とBoDVゲノムRNAの相互作用の解析:RIP assayによりADAR2とBoDVのゲノムRNAが直接相互作用しているかを評価する。ADAR2野生型と、RNA結合能が欠損した変異体を使用する。 (3)A-to-I編集がBoDVの進化に及ぼす影響の解析:A-to-I編集がBoDV感染に重要であることを示唆するデータを得ているが、ウイルスにとって絶対的に必要なA-to-I変異はすでに獲得されていると考えらる。そのため、実験的にADAR2の発現を変動させても、過去に獲得されたA-to-I変異の重要性を評価することはできない。そこで、報告されているBoDVのゲノム配列中にある、ADARのpreference sequenceについて解析することで、BoDVの進化におけるA-to-I編集の意義を解明する予定である。
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