2018 Fiscal Year Annual Research Report
火山灰土壌に生育する樹木のリン獲得メカニズムの解明
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18J14792
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
向井 真那 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 火山灰土壌 / リン / 森林 / 非晶質鉱物 / 鹿沼土 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は野外観察と室内での栽培実験を通して、「火山灰土壌に生育する樹木は非晶質鉱物(アロフェン、イモゴライトなど)に吸着したリンを獲得している」という仮説の検証に努めた。特に野外観察で得られた研究成果を、2019年3月の日本森林学会で「屋久島火山灰土壌における樹木細根滲出物と根圏土壌の化学特性の変化」というタイトルで発表した。ここでは、屋久島の火山灰土壌に生育する優占樹木の細根の化学組成を調べ、特に火山灰土壌としての特徴が強い(土壌非晶質鉱物濃度が高い)ところでは、根圏で非晶質鉱物を溶かして、根圏で可給態のリンが上昇することを示した。このことは野外では樹木は非晶質鉱物に吸着したリンを獲得している可能性を示している。 さらに、これまで行ってきた屋久島の標高傾度に沿った火山灰寄与率に関して、2019年3月の日本生態学会で発表した。ここでは、ストロンチウムと鉛の安定同位体比を用いて、屋久島の表層土壌にどれくらい火山灰が寄与しているのかを調べた。屋久島では低標高で火山灰の寄与率が高く、標高の上昇に伴い火山灰の寄与率は線的に減少することを示した。本発表の内容は屋久島の屋久島環境文化財団が発行する商業誌である屋久島通信で、「屋久島の森林生態系への火山灰の影響 7300年前の鬼界カルデラの噴火から」というタイトルで本研究成果を発表する予定であり、すでに寄稿済みで来年度掲載される予定である。 また、これまでの研究成果の一部をまとめ、国際誌 Journal of Forest Research誌に論文を発表した。さらに、これまでの研究成果を博士論文にまとめ、すでに提出済みであり、学位取得は5月を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
野外観察では、非晶質鉱物濃度(アロフェン・イモゴライトなど)の異なる屋久島の3つの低地の調査地において、優占樹種上位4種の根圏・非根圏土壌の土壌化学組成と、樹木細根からの滲出物分泌速度を調べた。その結果、火山灰土壌の特徴の強さに関わらず、土壌全リンと可給態リン濃度は樹木の根圏で一律に増加する傾向がみられ、また、火山灰土壌の特徴が強い森林では、樹木は根圏で非晶質鉱物を溶解し、非晶質鉱物に吸着したリンを可給化している可能性があることが分かった。このように樹木細根の根圏では化学組成が変化していることが明らかとなったが、根圏でのリン・非晶質鉱物濃度の変化量と樹木細根からの有機酸分泌速度とは有意な相関関係がみられなかった。樹木細根からは滲出物連続的に分泌されており、樹木根圏の化学組成の変化には長期的な樹木細根滲出物が効いている可能性が示唆された。この内容を日本生態学会で発表した。 室内での栽培実験では、園芸用鹿沼土で実生を栽培し、樹木が非晶質鉱物に吸着したリンを獲得できているのかを直接的に調べた。使用した鹿沼土は可給態のリンが非常に少なく、存在するリンのほとんどが非晶質鉱物に吸着している。樹木の栽培100日後の樹木のリン濃度の解析を行ったところ、栽培開始前と栽培後100日後の実生中のリン量に変化が見られず、100日間では樹木は非晶質鉱物に吸着したリンを利用していない可能性が示唆された。しかし、時間が経過すると樹木は利用している可能性もあるので、現在も栽培を継続して行っている。現在、栽培開始1年後の実生の収穫、土壌採取は終えており、このあと2年後の実生・土壌採取を行う予定である。今後、実生のリンなどの栄養塩分析、鹿沼土の非晶質鉱物濃度やリンなどの栄養塩分析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度も引き続き野外観察と室内での栽培実験を通して、「火山灰土壌に生育する樹木は非晶質鉱物(アロフェン、イモゴライトなど)に吸着したリンを獲得している」という仮説の検証に努める。野外観察に関しては予定通り研究が進んでいるので、平成31年度は特に、平成30年度にできなかった栽培土壌での根圏土壌のリン可視化に精力的に取り組む。そのために、放射線医学総合研究所でmicro-PIXE法を用いて元素のマッピングを行い、リンが根圏土壌で増えているのか検証を行う予定である。この分析のために根圏土壌の薄片作成を行う。土壌薄片作成では栽培している実生を採取する際に、丁寧に根とその根圏の土壌を採取し、その後凍結乾燥をした後、細根とその周りの鹿沼土を樹脂で固めて行う。土壌薄片作成は業者に外注し、凍結乾燥までを自分で行う。この根圏土壌の元素マッピングの結果が得られ次第、国内の学会で発表し、野外実験と栽培実験の内容に関して論文を執筆し、投稿する予定である。 また、これまでの研究成果を”Nitrogen mineralization rates of the soils incubated under different temperatures from different elevations along an environmental gradient on Yakushima Island”、”Estimating the contribution of volcanic ash as a source of mineral nutrients in forest ecosystems on Yakushima Island using Sr and Pb stable isotopes”というタイトルですでに執筆を終えており、ともに共著者の了承を得られ次第、国際誌に投稿する予定である。
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