2018 Fiscal Year Annual Research Report
ケニアにおける障害者と非障害者の相互関係:介助実践から考える
Project/Area Number |
18J14936
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
善積 実希 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | アフリカ地域研究 / ケニア共和国 / サンブル県 / 障害 / 子ども / 障害者支援施設 / ケア / 自発的な介助 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は障害者と非障害者の相互関係の実態とこれらが変化する様相を介助実践に着目して明らかにすることを目的とする。長期的なフィールドワークでの参与観察と半構造化インタビューから「①介助される場面における障害者と非障害者の相互関係の調査」と「②介助を必要としない場面での障害者と非障害者の相互関係の調査」を実施する。調査対象地域として、ケニア共和国で牧畜を主たる生業とする人々が住んでおり、かつ人類学的な研究の厚い蓄積があるにもかかわらず、障害者の生活実践に着目した研究がおこなわれてこなかったサンブル県(Samburu County)を選定した。本研究の成果としては、アフリカ地域で障害者支援に取り組む政府当局や国際機関、NGO/NPOが有効な支援プログラムを策定することに貢献することを目指す。2018年度では、当初の計画通り「①介助される場面における障害者と非障害者の相互関係」についての現地調査および文献調査をおこなった。とくに、障害をもつ子どもたちを支援する障害者支援施設に着目し、ここで生活する脳性麻痺児への介助実践および障害者と介助者の相互関係を明らかにするためのフィールドワークを3ヶ月にわたって実施した。そこで明らかとなったのは(1)おむつや衣類など物資が限られている環境下においても、施設に勤務するスタッフ(介助者)が介助の方法を工夫することでケアを成立させていること(2)スタッフだけではなく同施設で生活する軽度の障害をもつ子どもも介助を担っていることである。この施設の特徴は、施設で生活する子どもたちの自立度はさまざまで、介助をほぼ必要としない子どもから全介助を必要とする子どもまでいることである。本研究で明らかになった重要な点は、障害をもつ子どもによる自発的な介助の実践が存在し、これは、障害の程度が一様でない子どもたちが共に生活することで形成されたケアの実践であることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度には、学会誌等への投稿を2件、学会での口頭発表を3件実施した。これらの発表では、2017年度に実施した障害者支援施設における介助実践に関する予備調査の結果を報告した。これらの研究活動をとおして、専門分野である地域研究に留まらず、文化人類学や障害学、開発学の専門家からのフィードバックを受けて、補完すべきデータを確認する作業に努めた。これらの成果発表に対するフィードバックを参考にして、フィールド調査の計画を再考し、ケニア共和国のサンブル県にある障害を持つ子どもを支援する障害者支援施設でのフィールドワークを実施した。また、アウトプット活動として、進行中の研究課題とフィールドワークの調査手法に関する講演を他大学において2件実施した。これらのインプット活動とアウトプット活動は予定通りに実施することができた。また、フィールドワークで収集したケアの実践に関するデータは、日常生活における障害者と非障害者のインタラクションや介助現場でみられるケアの様相など多面的かつ詳細なもので、その分析、解釈に多くの作業と慎重さを必要とするため、現在も2018年度から引き続いて取り組んでいる最中である。以上の点から、当該研究課題についての進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の調査から、障害者支援施設において、障害の程度が一様でない子どもたちが共に生活することで形成されたケアの実践の様子を明らかにした。こうした介助が成立している状況を、(1)この地域における家庭での子どもの役割、(2)障害者支援施設のケニア社会とサンブル社会における社会的位置づけを考慮にいれながら、より詳細に明らかにすることが2019年度の課題である。そして、当初の研究計画に沿って「②介助を必要としない場面での障害者と非障害者の相互関係」に着目しつつ、施設でみられる障害者と非障害者の全体的な相互関係を描き出すことを目標とする。そして、博士論文執筆に必要となるデータ補完のために、短期間のフィールドワークを実施し、学会や学会誌などでの研究発表などアウトプット活動にも尽力する。
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