2018 Fiscal Year Annual Research Report
形状記憶合金の変態温度を予測する手法の確立とそのTi基形状記憶合金への適用
Project/Area Number |
18J15203
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
南 大地 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 形状記憶合金 / マルテンサイト変態温度 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、形状記憶合金の変態温度を予測する手法の確立及び、その手法のTi基形状記憶合金への適用と合金設計である。本年度の研究実施以前から、変態温度と母相ーマルテンサイト相(M相)間のエネルギー差の間に粗い比例関係が成立し、母相‐M相間のエネルギー差を用いて変態温度が予測できることを明らかにしている。そのため本年度は、当初の計画であった形状記憶合金の変態温度を予測する手法のTi基形状記憶合金への適用と合金設計に加え、デバイモデル及び機械学習を用いた予測手法構築による変態温度の予測精度の向上を行った。 デバイモデルを用いて母相及びM相の振動エントロピー項を考慮した自由エネルギーを算出し、得られた母相及びM相の自由エネルギーが等しくなる温度から算出した変態温度は、本年度の研究実施以前から用いていた母相‐M相間のエネルギー差から算出した変態温度よりも予測精度を大きく向上させることができた。また、第一原理計算と機械学習を併用した変態温度の予測手法では、デバイモデルを用いた自由エネルギーの第一原理計算から算出した変態温度よりもさらに予測精度を向上させることができた。 さらに、構築した変態温度の予測手法を適用しTi基形状記憶合金の合金設計を行った。まずTi-Nb-X合金について、変態温度が室温となる条件下で、ω相を抑制しかつより変態ひずみを大きくする、Ti‐Nb基形状記憶合金の特性改善に最も有効な元素はAlであった。そこで、Ti-Nb-Al合金について自由エネルギーの変態温度の予測手法を適用し、合金組成の最適化を行った結果、室温で形状記憶特性を発現し、8%の高い変態ひずみを有しかつω相を抑制することができる最適な合金組成を設計できた。 今後の研究では、開発した形状記憶合金の変態温度を予測する手法をTi基形状記憶合金以外の合金系へ適用し、形状記憶合金設計の新たな指針を提案する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、変態温度予測精度の向上と、形状記憶合金の変態温度を予測する手法のTi基形状記憶合金への適用及び合金設計を行った。 まず、第一原理計算によりTi‐Nb合金の弾性率を算出し、デバイモデルを用いて母相とマルテンサイト相(M相)の振動エントロピー項を考慮した自由エネルギーを算出し、その自由エネルギー差が0となる温度から変態温度を算出した。その結果、母相‐M相間のエネルギー差から算出する手法よりも高い予測精度が得られた。さらに、第一原理計算と機械学習を併用した変態温度の予測手法も検討した。変態温度が既知の合金について、第一原理計算で得られた母相‐M相間のエネルギー差および体積弾性率を説明変数、変態温度の実験結果を被説明変数とした人工ニューラルネットワークを構築した。機械学習を行った結果、デバイモデルを用いた手法よりさらに高い予測精度が得られた。 機械学習による予測手法は優れた予測精度を持つが、変態温度と各パラメータとの物理的因果関係が明らかではなく、実験研究者が合金設計に活用するには信頼性に欠ける。そこで、母相‐M相間のエネルギー差もしくはデバイモデルを用いた自由エネルギーの第一原理計算から変態温度を予測する手法を適用しTi基形状記憶合金の合金設計を行った。まず、Ti-Nb-X合金について、46種類の第三元素Xのうち、母相‐M相間のエネルギー差から変態温度が室温となる条件を算出し、その条件下でω相を抑制しかつより変態ひずみを大きくする第三元素Xを探索した結果、Alが最も有効な元素であった。そこで、Ti-Nb-Al合金について自由エネルギーの第一原理計算から変態温度を予測する手法を適用し、変態温度、変態ひずみ、ω相安定性に及ぼすNb濃度とAl濃度の影響を評価した結果、室温で形状記憶特性を発現し、8%の高い変態ひずみを有しかつω相を抑制することができる最適な合金組成を設計できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在までに開発した形状記憶合金の変態温度を予測する手法を、Ti基形状記憶合金に限らず、より幅広い合金系へ適用することによって網羅的に合金探索を行い、新規形状合金の合金設計を行う。 Ti基形状記憶合金と同様に母相にbcc基調の構造を持つ合金に着目し、新規形状記憶合金の探索を行う。具体的なターゲット合金は3つである。第一に、Ti基形状記憶合金と同様の変態である母相に不規則bcc構造、マルテンサイト相(M相)にorthorombic構造を有するbcc‐orthorombic型変態、第二に、Cu基形状記憶合金に代表される母相にD03構造、M相に2H構造を有するD03‐2H型変態、そして第三にAu-Cdに代表される母相にB2構造、M相にB19構造を持つB2‐B19型変態である。 合金探索の手法としては、まず母相に不規則bcc構造、D03構造、B2構造を有する二元系合金をICSD及びNIMSのデータベースから抽出し、対象の合金についてそれぞれの母相及びM相の形成熱を第一原理計算から算出する。形状記憶効果の発現のためには母相がM相よりも高温相である必要があるため、第一原理計算により得られた母相及びM相の形成熱の計算結果を用いて、0Kにおいて母相よりもM相が安定な合金のみに絞り込む。さらに、競合相がある場合、目的のM相へのマルテンサイト変態を阻害する可能性があるため、形状記憶効果の発現に必要なM相以外の競合相が報告されている合金についてはその競合相についても計算を行い、M相よりも競合相のほうが安定であった合金については除外する。なお、既知の合金については以上の条件を満たすことを確認している。 以上のようにして合金を絞り込み、最終的に残った合金から、室温近傍もしくは室温より高温において形状記憶効果を発現する変態温度を持ち、かつ既知の合金に匹敵する大きな変態ひずみを持つ新規合金を探索する。
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Research Products
(8 results)