2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト生理学的特徴の定量的評価のための非線形振動子による脳波解析手法の開発
Project/Area Number |
18J15519
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
上原 賢祐 山口大学, 創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 非線形振動子 / 脳波解析 / パラメータ同定 / カオス / 安静状態 / 集中状態 / 精神状態 / 逆問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の脳波解析手法で使用する非線形振動子を用いたモデル式のモデルパラメータ特性やモデル構造の調査,さらに2点間脳波の解析を行うためにモデルである非線形振動子を連成させた場合の調査を行った. まず,健常時のモデルパラメータと生理学的特徴の具体的関係性について調べた.安静時と集中時の異なる精神状態の脳波実験データを使用し,精神状態の変化に伴うモデルパラメータの同定値を統計処理により調査した.その結果,集中状態の方が,非線形パラメータと線形パラメータの相関が強くなることが確認されたことから,脳波信号から集中度合いを数値的に表示することができる有効な手法であることを確かめた. モデル構造に関する調査は,具体的には,変位の3次の非線形項を持つDuffing型と,エネルギ的に非保存な非線形減衰項を有するvan der Pol型を用いて同じ実験データからモデルパラメータを同定し,その違いを比較した.その結果,非線形項の有無がモデルパラメータ全体に与える影響が大きいことが確認され,非線形項を導入したことによるモデルパラメータの特徴を把握することができた.この発見は,脳波信号を非線形振動子でモデル化する際に,生理学的特徴の定量化を図る上で重要であることを確認した. また,2点間脳波の相互関係を解析するために,非線形振動子を連成させたモデルを用いて,てんかん波とその周辺脳波を用いてモデルパラメータ同定を実施した.その結果,非線形パラメータは,単点や多点に限らず重要なパラメータであることがわかったが,1秒間の窓幅では,モデルパラメータを同定するためのエラー関数が,十分に小さくならなかったので,0.4秒と狭い幅に設定した.逆問題を解く手法において,この解析窓の幅は,脳波が持つ特性を考察する上で重要なハイパーパラメータであり,多点の脳波解析に関しては,さらなる検討が必要であることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ヒト脳波データを直接用いて同定されたモデルパラメータの時間的推移によって,ヒトの心理状態や脳疾患の病態の定量評価に応用するための研究である.そのため,ヒトの生理学的状態に応じたモデルパラメータ値の理解には意義がある.現状では,安静状態および集中状態のモデルパラメータの分類を統計的な観点から説明することに重きをおいて1秒間の解析窓を用いてモデルパラメータ同定を行った.脳波解析において初めに調べるべき課題の安静状態と集中状態のモデルパラメータと生理学的特徴の具体的関係性についての知見を得ることができた.また,非線形振動子のうち,2つの非線形項(Duffing型,van der Pol型)に関するモデルパラメータと集中状態の関連性を明らかにできた.これらの結果より,ヒト脳波信号の振る舞いのモデル化には,非線形項の重要性も同時に明らかになった. 2点間脳波の解析に関しては,てんかん性異常脳波に本手法を適用して,てんかん波とその周辺脳波を用いてモデルパラメータ同定を実施した.モデルパラメータ同定手法には,逆問題を解く手法として実数型遺伝的アルゴリズム(RGA)を使用して最適化問題を解いたが,解析窓が1秒間では十分に評価関数が小さくならなかった.解析窓の幅の検討やモデルの検討を行った結果,0.4秒間の解析窓でモデルパラメータ同定を行うと,満足のいく結果がえられ,現状モデルの限界の把握と,多点の脳波解析に関してさらなる検討が必要であることがわかった.そこで,モデルパラメータを同定する方法を最小二乗法へ変更し,再度モデルパラメータの同定を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度は,実験データを正解値とした逆問題を解き,モデルパラメータを同定した結果,異常脳波および健常脳波のモデルパラメータの凡その値や,各パラメータ値の相関などの指標を明らかにしてきた.しかしながら,これまでの方法では,解析するために膨大な時間が掛かっており,検討すべき周波数帯域や解析窓の幅,多点の処理が行われていない.今年度の研究目的は,引き続き,「非線形振動子を用いた脳波解析モデルの確立」であるが,前年度で得られた知見を参考に,解析処理方法を最小二乗法へと変更し,以下4点の推進方策を立てる.1)これまで時間が掛かっていたモデルパラメータ同定の方法を,最小二乗法に変更する.脳波の実挙動を正解値としない代わりに,サポートベクトルマシン(機械学習)により状態判別を行うことで,モデルパラメータと生理学的意味との対応をつける.2)最小二乗法を用い解析における解析窓の幅を1秒から3秒に拡張してモデルパラメータ同定を行う.これは,生理学的特徴の反映を狙うためである.3)アルファ波だけではなく,広帯域の周波数を含んだ脳波データの解析とともに,脈拍やその他生体の代表的な周波数も考慮して調べる.4)単点のみならず,複数の脳波データを相互作用させた形でモデルの拡張を行うとともに,モデルパラメータの具体的指標を実験的に調べる. 以上の4点の改良および実施方策を行って手法の有用性を確認した後で多種多様な脳波データを解析し,これまでにない新たな脳波解析の手法としてデータベースを作る.
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Research Products
(7 results)