2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J20018
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
正木 愛美 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 転換現象 / 暗黒物質 / 重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、以下の2点を並行して行うことが当初の計画であった。(1)これまでの研究で明らかになった、転換現象のシグナルが持つ磁場配位依存性の研究を進展させること。(2)重力子・光子転換現象が観測に与える影響を明らかにすること。これに基づき、実際に行った研究の具体的内容を以下にまとめる。
転換現象のシグナルがもつ磁場配位依存性から、宇宙磁場の起源にせまるためには、観測する電磁波や重力波が転換現象の影響を強く受けるような状況、つまり波源や磁場の強度・プラズマの密度などが適切に整っていなければならない。既に行った研究において、アクシオン・光子転換現象については適切な状況をひとつ見つけることができている。次の目標として、重力子・光子転換現象が観測に実質的な影響を与える状況を突き止めることを目指した。
同じ状況下では、重力子・光子転換現象の転換確率は、アクシオン・光子転換現象に比べてずっと小さい。さらに、観測から宇宙磁場の強度に上限がついていることも転換確率の増加を妨げる一因であった。 そこで注目したのが、暗黒物質のモデルの一つに含まれている質量を持たない暗黒光子の存在である。現在観測されている磁場がインフレーションで作られる可能性があるように、同様の機構で暗黒磁場も生成し得る。しかも、そのような暗黒磁場は現在のところ観測されていないので強度に対する上限も存在しない。さらに、透過性の高い重力波の特性を活かして電磁波の届かないような宇宙初期にまで時代を遡ることで、より高い強度の暗黒磁場中で、重力波と暗黒電磁波の転換現象を論じた。このとき、転換確率は非常に大きくなることが判明し、将来高周波の重力波観測が可能になれば、転換現象のシグナルの有無やその影響の度合いから、宇宙初期の重力波源や暗黒セクターに対する情報を引き出せる可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
素朴な状況では転換確率が非常に小さいために、その観測への影響はそれほど重要視されてこなかった重力子・光子転換現象ではあるが、暗黒物質のモデルと組み合わせることで無視できない影響を与え得ることを指摘したという意味で、重要な結果が得られた。この結果をまとめた論文は学術誌に掲載されている。
本年度のこの成果は、未だ観測されていない「暗黒」磁場中での転換現象であるため、長らく懸案となっている通常の宇宙磁場の起源に対して直接的な提言を与えることは難しい。しかし、本年度の研究を通して重力子・光子転換現象が有効に働く条件を調べたことは、転換現象のシグナルから通常の宇宙磁場に対する理解を深めるという、本来の目的にとっても有益であったと考えている。また、現在の観測結果によると、通常の磁場は銀河のように物質や暗黒物質が多く集まっているところほど、その強度が高いとされている。よって、転換現象を考える際に、磁場と共存している暗黒物質のモデルがもつ特性も、同時に考慮すべきという視点をも手に入れ、次に続く研究の着想を得た。
また1年を通じて、自身の研究内容について国内外で計6回の学術発表を行った。 以上のような研究状況を勘案した結果、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、転換現象と暗黒物質を結びつけるという視点を得た。本研究課題である、アクシオン・光子・重力子転換のうち、光子が暗黒セクターに属する場合を考えたのが今年度の研究であった。
今後は、アクシオンが暗黒物質として振る舞う場合の光子・アクシオン転換現象を考える予定である。アクシオンは、暗黒物質の正体の有力候補として近年注目を浴びており、様々な方向からその存在や妥当性が検証されている。このような動向からしても、アクシオン暗黒物質と転換現象の結びつきを調べておくことは重要であろうと判断した。
転換現象を用いて宇宙磁場に対する理解はもちろん、アクシオン暗黒物質に対する知見も引き出したいと考えている。
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