2018 Fiscal Year Annual Research Report
記憶における主観的時間の形成に情動が与える影響とその神経機構の解明
Project/Area Number |
18J20036
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩田 沙恵子 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶 / 時間 / 情動 / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,複数のfMRI研究を通して,記憶における主観的時間の形成に情動とその制御機構が与える影響とその神経機構を解明することを目的とした. 2018年度では,予備行動実験を経て最適な実験パラメータを決定したうえで,健常若年成人を対象としたfMRI実験を実施した.現在すべてのデータを取得済みで,国際学会への発表に向けて準備中である.実験課題は3日間にわたって実施され,1日目と2日目では記銘課題が行われ,3日目にはfMRI撮像を伴う新近性判断課題が行われた.1日目と2日目の記銘課題では,実験参加者は,笑顔または無表情の顔写真と名前のペアが提示され,顔と名前を学習することが求められた.3日目の新近性判断課題では,実験参加者は1日目と2日目に学習した名前が2つずつ同時に提示され,「どちらの名前の人物をより最近に学習したのか」について判断することが求められた.その結果,行動データでは,新近性判断課題の成績や反応時間において,記銘条件(笑顔,無表情)間で有意な差は認められなかった.fMRIデータは現在解析中で,記銘時に笑顔であった人物について主観的に「最近」であると判断した際には,記銘時に無表情であった人物について主観的に「最近」であると判断した際と比較して,情動の処理に関連する領域と,記憶における時間の判断の処理に関連する領域との相互作用が関与していることが予測される. また,本年度では,記憶における時間情報の処理を担う神経基盤を検証した脳機能画像研究や,記憶や時間情報の処理の障害を呈する脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究の知見を整理し,そのうえで,記憶における「時間」の役割についての仮説モデルを提唱した.この研究成果は総説論文として学術雑誌に掲載された.他の業績として,共同研究として実施した自伝的記憶や顔の認知に関する心理実験の成果を,複数の学会にて発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度では,研究計画の通り,前半ではfMRI本実験に向けた予備行動実験を実施し,fMRI実験に最適な実験パラダイムを確立した.後半では前半で決定した実験パラダイムを用いて第一の研究である健常若年成人を対象としたfMRI実験を実施し,すべてのデータを取得した.現在綿密な解析を進行中で,研究成果は2019年10月に開催される国際学会Society for Neuroscience(北米神経科学学会)で発表予定である.また,本研究課題の重要テーマである「記憶」と「時間」について,記憶における時間情報の処理を担う神経基盤を検証した脳機能画像研究や,記憶や時間情報の処理の障害を呈する脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究の知見を整理し,総説論文を発表した.さらに,共同研究として実施した自伝的記憶や顔の認知に関する心理実験の成果を複数の学会にて発表した.これらのことから,2018年度の進捗状況はおおむね順調であり,十分計画通りであったと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では,記憶における主観的時間の形成に情動が与える影響とその神経機構についての加齢の効果を解明することも目的としている.そこで,第二の研究として,健常高齢者を対象としたfMRI研究を計画している.2018年度で実施した健常若年成人を対象としたfMRI研究の実施状況や解析結果を受け,2019年度は速やかに高齢者の研究を実施し,研究成果をまとめて国際学会で発表し,最終的には国際学術論文へ投稿する. 健常高齢者は,人材派遣会社より派遣された60代の男女40名を対象とし,実験手順は健常若年成人と同様である.ただし,認知機能が正常である者のみを対象とするため,全世界で標準的に用いられている全般的認知機能検査のMontreal Cognitive Assessment(MoCA)と前頭葉機能検査のFrontal Assessment Battery(FAB)等のスクリーニング検査を実施する. 当該研究員は,過去に共同研究として高齢者を対象としたfMRI研究を既に複数回経験済みで,実験の実施やデータの解析は問題なく進めることが可能であると考えている.研究を遂行するうえでの問題点としては,解析に時間がかかることが予想されるが,研究拠点である京都大学には,fMRIを用いて研究を行う心理学・認知科学・認知神経科学の研究者が多くいるため,相談し,アドバイスを受けることが可能である.また,大学内外のセミナーや研究会に参加したり,学会等で発表したりすることで,他の研究者からの意見をもらう.このように,知識を深め,新たな手法を獲得していくなかで最善の研究成果を挙げること目指す.
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