2019 Fiscal Year Annual Research Report
革新的物性制御を基盤としたビスマス太陽電池の探求と学理の確立
Project/Area Number |
18J20108
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西久保 綾佑 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 太陽電池 / 非鉛材料 / ビスマス / アンチモン / 時間分解マイクロ波伝導度法 / 正孔輸送材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、鉛ペロブスカイトの代替材料として、鉛に近い電子構造を持ち酸化の影響を受けにくいビスマスやアンチモンを用いた光電変換材料について研究を行った。昨年度までは、計40種類のビスマス・アンチモン系材料を実際に試作し、時間分解マイクロ波伝導度法(TRMC)による評価を行った。これらを基に、本年度はi)結晶構造と光電気物性の関係の解明、ii)材料選定と成膜プロセス開発による光電変換機能の向上、iii)太陽電池素子における正孔輸送材料の探索を行い、論文執筆にまで至った。 まず、0次元型に比べ3次元型結晶では電子・正孔をより効率的に取り出すことが可能であることをTRMC測定から明らかにし、その内容を論文として発表した。その後、ビスマス系に比べアンチモン系3次元型結晶が優れた光電変換特性を持つことが判明したものの、太陽電池素子の性能は1%以下の低い値にとどまっていた。そこで、比較的高いTRMCシグナルを示していた1~2次元の低次元型結晶にも注目し、新規組成の溶液を用いた膜塗布プロセスを開拓した。その結果、アンチモン系低次元結晶において、電子・正孔輸送材料へのより効率的な電荷輸送が観察され、太陽電池の素子性能も昨年度の3倍以上にまで向上した。 続いて、9月から12月にかけて、スイス連邦工科大学ローザンヌ校へ留学し、これまでに見出した非鉛材料に適合する正孔輸送材料の探索と評価を行った。様々な新規構造を持つ正孔輸送材料用いて実験を行い、正孔輸送材料の化学構造と正孔輸送特性における関係性を明らかにした。また、電子顕微鏡(SEM)により非鉛材料膜に多数のピンホールが存在することを発見し、ブロッキングレイヤーの導入等を行うことで、電圧ロスの改善に至った(電圧値が10%ほど向上)。以上の一連の研究を論文にまとめ、投稿にまで至っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初の計画通り良好に進んでいる。今年度までに、当初計画していたビスマス系発電材料の探索に加え、アンチモン系発電材料も含めた包括的な物性評価を行うことができた。まず前年に引き続き、TRMC測定を用いた光伝導度測定と電子輸送層への電子輸送効率の評価により、本質的な光電変換機能の比較を行った。これに加えて、価電子帯準位やバンドギャップ、結晶性といった基礎物性も包括的に評価した。スクリーニングした材料は44種類に上り、それぞれについて実験的な評価を行った。以上の複合的な物性評価から高い光電変換機能が期待される組成や結晶構造を明らかにしたことは重要な進展である。次いで、特に高い光電変換機能を示したアンチモン系化合物において、均一な元素分布が可能な薄膜作製プロセスを独自開拓したことも特筆すべきである。ここでは新たな前駆体化合物を合成したことで、1段階で成膜できる溶液塗布プロセスを開発した。これにより、これまで困難であった均一で高品質な成膜が可能となり、太陽電池性能を大きく向上させた。また、正孔輸送材料においては、正孔輸送に有利な化学構造を見出したことも重要な成果である。高分子、低分子、無機化合物など多様な正孔輸送材料を比較することで、統一的な構造ルールを明らかにし、学術的にも有意義な知見が得られた。このように、当初の研究計画を滞りなく進め、既に一報の英語論文を発表している。さらに現在、新たな国際共著論文を執筆・投稿にまで至っており、研究成果の発表も順調に進めている。以上を鑑みて、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究では、物性評価を基に合理的な材料探索とデバイス構造の最適化を行い、ビスマス・アンチモン系太陽電池における多くの知見を明らかにしてきた。しかしながら、太陽電池素子の電圧ロスは鉛ペロブスカイト太陽電池に比べると依然として大きく、改善の余地がある。一般的に電圧ロスの原因は大きく分けてバルク内と接合界面の2箇所が考えられるが、独自手法を用いた成膜によりバルクは高品質であり、トラップ密度は低いと考えられるため、接合界面におけるエネルギー損失が大きいと予想される。実際、正孔輸送材料の種類によって電圧が大きく変化しており、界面損失の存在が少なからず示唆される。そこで、正孔輸送層、電子輸送層それぞれとの接合界面に着目し、電圧ロスが生じる機構を探る。特に、本研究で扱っている新規太陽電池は、光源の種類などの測定条件による電圧-電流特性への影響が観察されている。それらの原因を明らかにすることで、太陽電池素子の性能を向上させる術を検討する。界面状態を改善する具体的な手法としては、パッシベーション材料のポストトリートメントなどを検討していく。また、素子特性の光源依存性を解明できれば、新たな機能を持つ光応答デバイスの実現も期待される。ここでは、異なる波長のパルス光や定常光を用いて、電流や電圧の変化を様々な時間スケールで観察する。JV測定に限らず、外部量子効率測定やオシロスコープによる過渡電流・電圧測定を行う。以上の方針のもと、ビスマス・アンチモン系光電変換材料をさらに発展させるため、太陽電池に限らない展開を視野に入れ、研究を行っていく。
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Research Products
(11 results)