2019 Fiscal Year Annual Research Report
mtDNAに病原性突然変異を有する新規ミトコンドリア病モデルマウスの作出と解析
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18J20289
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷 春菜 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / ミトコンドリア病 / ミトコンドリアゲノム / 病態モデルマウス / ミトコンドリア遺伝子疾患 / エネルギー産生不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアは生体内におけるATP合成等を担う細胞小器官であり、独自のゲノムであるmtDNAを有している。病原性変異型mtDNAの蓄積は、ミトコンドリア呼吸機能不全を介し、ミトコンドリア病と総称される全身性の代謝疾患の原因となる事が知られている。ミトコンドリア病の臨床症状や症度、発症時期は変異型mtDNAの組織間分布や蓄積率、患者の遺伝的核背景、年齢、生活習慣など多様な要因により制御されていると考えられており、詳細な発症機構の解明および治療法の確立は困難を極める。この様な生体複雑系によって制御されるミトコンドリア病の多様な病型形成を理解する為には、病原性変異型mtDNAを含有するモデルマウス群の作出と活用が有効な研究戦略となる。本研究では、ヒトmtDNAにおいて病原性変異の発症頻度が高いtRNALeu(UUR)遺伝子領域に病原性点突然変異を導入したモデルマウスを作製し、病態解析を行う事を目的としている。 今年度は樹立されたモデルマウス群を用いた表現型解析を行った結果、変異型mtDNAの蓄積に伴い、血中乳酸値の上昇や組織におけるミトコンドリア機能低下などミトコンドリア病患者の臨床所見を再現する事が確認された。また、その様な表現型に加え、変異率の高いモデルマウス群では定常時血糖値の上昇および耐糖能異常、インスリン抵抗性が確認され、糖尿病の臨床所見が見られた。mtDNAに生じる突然変異は一部の糖尿病患者からも検出されており、今後、当該モデルマウスがミトコンドリア機能不全と糖尿病発症の関連性を理解する為に有用である可能性が示唆されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は「変異型mtDNAを有する成熟期のモデルマウス群における病態解析」を主要な研究実施計画として定めていた。モデルマウス群を用いた経時的な血中乳酸値の測定により、当該モデルマウスにおいて加齢に伴う血中乳酸値の上昇といったミトコンドリア病患者の臨床所見を再現する事を確認できた。加えて、経時的な定常時血糖値の測定、経口糖負荷試験、インスリン負荷試験により変異型mtDNAを高率に有するモデルマウス群では糖尿病病態の発症頻度が高い事が示唆された。これらの結果を踏まえ、モデルマウスより摘出した組織を用いた組織学的・生化学的解析を行い、ミトコンドリア機能低下および肝機能異常を確認している。この他にも申請者は当該モデルマウスを用いて「生体内における変異型mtDNAの組織間分布」および「変異型mtDNAの遺伝様式」についても新たな知見を得ることに成功している。これらの結果は申請者により多数の学会で発表され、受賞等の評価を受けている。従って、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は老齢期のモデルマウスを用いた病態解析を進めることで病態発揮と年齢の関連性を明らかにすると共に、主要な組織ごとの詳細なミトコンドリア機能を解析し、組織間における病態発揮に対する抵抗性の違いについて検証する予定である。 また、ミトコンドリア病患者の組織や培養細胞を用いた先行研究より、tRNALeu(UUR)遺伝子に点突然変異を有する事で特定のtRNA修飾が欠損し、翻訳活性が低下することが示唆されている。加えて、tRNALeu(UUR)遺伝子に生じる点突然変異は、RNA前駆体のプロセシング阻害やtRNAの安定性低下の原因となり、tRNALeu(UUR)の発現量を減少させるとの報告も存在する。この様な現象がモデルマウスにおいて再現されるかを検証する事で、病態モデルマウスとしての有用性を示し、ミトコンドリア発症機構の解明へ繋げたい。 本研究で樹立したモデルマウスは、生体内に野生型mtDNAと変異型mtDNAが混在した状態でmtDNAを有している。哺乳類のmtDNAは子孫に完全母系遺伝する事が知られているが、その遺伝様式には未だ未解明な点が多い。昨年度、当該モデルマウスを用いて母親からその子孫への変異型mtDNAの遺伝を調査したところ、母親が年齢を重ねるに伴い、その産仔に遺伝する変異型mtDNAの割合が低下する傾向が見られた。これらの結果を踏まえて、今年度は母親の年齢、出産数、世代に着目し、変異型mtDNAの遺伝との関連性を詳細に解析することで変異型mtDNAの遺伝様式に対する理解へ繋げたいと考えている。
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Research Products
(5 results)