2018 Fiscal Year Annual Research Report
電場誘起顕微ラマン分光装置の開発と太陽電池及び微生物燃料電池への応用
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18J20312
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
戸田 尚吾 関西学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 電場効果 / ラマン分光法 / 低振動領域 / イオン液体 / 有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト / 格子振動 / 有機カチオン / 電場変調赤外分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではエネルギー問題の解決に向けて,有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト太陽電池や微生物燃料電池といった次世代電池に注目し,起電力源の外部電場応答を明らかにすることで,動作機序を解明することを目的としている。初年度は,本研究で最も重要である電場応答を観測するための装置開発を行った。 超低振動数領域(>10 cm-1)のラマンスペクトルが観測可能な共焦点顕微ラマン分光装置(励起波長532 nm)を完成させた。また,電場を印加するための装置を導入し,装置制御ソフトを利用して自動で電場のON-OFFを繰り返すプログラムを作成した。さらに前述の共焦点顕微ラマン分光装置と組み合わせ,電場のON-OFFに同期してラマンスペクトルを測定するためのシステムを構築した。 電場応答の観測を行う対象として,完全にイオンから構成されているにも拘わらず常温で液体として存在するイオン液体に注目した。イオン液体の電場応答の理解はイオン液体を電解質として用いた電池の応用において極めて重要である。構築した装置を用いてイオン液体の低振動数領域から指紋領域までのラマンスペクトルを測定した結果,電場(20 V/cm)印加によるラマン散乱強度変化を観測することに成功した。また,信号強度の増減が電位の符号と関係していることも明らかとなった。分子の集団振動や分子間相互作用に由来する低振動数領域にも強度の増減が観測され,外部電場がイオン液体の巨視的な性質(密度など)に影響を与えることが示唆された。 二年目に実施予定である有機無機ハイブリッド型ペロブスカイトの電場応答観測の予備実験として,既存の電場変調赤外分光装置を用いたペロブスカイト薄膜の成膜条件の検討及び電場応答の観測を行った。得られた結果からペロブスカイト構造を構成する有機カチオンの電場応答が主に電子状態の変化に由来していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超低振動数領域(>10 cm-1)のラマンスペクトルが観測可能な共焦点顕微ラマン分光装置(励起波長532 nm)が完成した。電場を印加するためのシステムを構築し,ラマン分光装置を組み合わせることで,初年度に構築予定であった電場誘起顕微ラマン分光装置を完成させた。イオン液体を対象とし,電場印加に由来する信号の変化も観測することに成功し,電場印加によってイオン液体の巨視的な性質(密度など)が変化する可能性を見出した。 2年目に行う予定である有機無機ハイブリッド型ペロブスカイトの電場応答の観測も,既存の電場変調赤外分光装置を用いることで成功した。成膜方法の最適化や薄膜の評価方法の検討を含めて,十分な予備実験を行うことができたといえる。また,既存の共焦点顕微ラマン分光装置(励起波長632.8 nm)を用いて,2次元型有機無機ハイブリッド型ペロブスカイトの低振動数ラマンスペクトルを測定したところ,薄膜を構成する微結晶によって低振動数領域に観測されるラマンバンドの強度比が異なることを示唆する結果が得られた。以上のことから初年度はおおむね順調に進展しているといえる。 しかしながら,構築した共焦点顕微ラマン分光装置に関しては空間分解能の評価が未だ行えていない。評価するために必要な装置(ピエゾステージ)は既に所属研究室が所有しているため,空間分解能の見積もりは可能である。また現状として,他の手法(シュタルク分光法など)により電場応答が既知である試料を対象とした比較は行えていない。当初は共鳴ラマン効果による信号強度の増大が期待できるβ-カロテンを標準試料として実験を行う予定であったが,長時間露光する際に光照射による退色が確認されたため,電場印加によるラマン散乱強度変化は観測できなかった。そこで現在は高分子フィルムを用いて電場応答の観測に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
構築した共焦点顕微ラマン分光装置の性能を評価するために空間分解能を見積もる。計画では平面方向の分解能は300 nmを目標としているため,達成していない場合は光学系の最適化を行う。また,高分子フィルムを対象として電場応答の観測を行い,シュタルク分光法などによって得られている既存の結果と比較する。電場応答が観測できれば二年目に計画している有機無機ハイブリッド型ペロブスカイトの測定に着手できる。 しかしながら,現在の手法では電場ON-OFFを数千回繰り返し,12時間以上かけて電場応答を観測しており,長い時間スケールで変化する室温やレーザー照射部の熱による影響を受けやすい。また生体系(3年目に予定している集団微生物)への応用を視野に入れた際に測定時間の短縮は必須である。そこで非線形光学効果(コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)あるいは誘導ラマン散乱)を利用した測定に向けて光学系の改良を行う。非線形光学効果を利用することで,通常のラマン分光法で得られるラマン散乱強度と比較して大きな信号強度を獲得することができ,測定時間の大幅な短縮が可能となる。ポンプ光およびストークス光の発生には所属研究室が所有している広い周波数領域の光を発生可能なスーパーコンティニューム光源を利用し,初年度に構築した光学系を基にCARS測定が可能な光学系を構築する。電場印加によるCARS信号の変化については純液体のn-アルカンを対象に既に行われている(ただし,セルの構造が本研究で設計したものと全く異なる)ため,同様の分子種を用いて装置の性能評価及び最適化を行う。装置の改良,評価ができれば有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト薄膜の測定に着手する。ペロブスカイト薄膜に対しては計画通り,指紋領域と低振動数領域の両方に注目し,有機カチオンやハロゲンの種類による電場効果の違いや電場が誘起する格子振動の変化を観測する。
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